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豊富な教育経験のある先生がもたらしてくれる恩恵について

教師自身が学ぶための資源になる教育経験

教師の資質・能力の向上(=教師教育)は、今までもこれからも学校教育における大きな課題です。その課題解決のための答えは、一義的に正解が定まるようなものではありません。「指導力」という言葉で語られる教師の専門的スキルは、いかにして、育まれているのでしょう。

学校現場で毎日、教育指導に徹している教師が、児童生徒と共にさまざまな経験を積んでいることは間違いのない事実です。一方で、教師には教員研修など、学校現場を離れて、教育を受ける機会があります。こうした研修は、毎日行われるわけではなく、数カ月に1回や、夏休みなどの児童生徒の長期休暇の間に行われることが多いでしょう。

そのように考えると、教師のための学びの資源として最も大きなものの一つは、教師として働く日々の教育経験なのです。言い換えると、豊かな教育経験は、学校現場で働く教師たちを最も教育しているものであると言うこともできるでしょう。しかし、教育経験が、教師を教育することは、本当にできているのでしょうか、という疑問を、この記事では考えてみたいと思います。

教育経験は教師の教育効果を上げるのか?

この記事ではポドルスキ―ら(Podolsky et al.,2019)が「専門職の資源とコミュニティ(筆者訳:Journal of Professional Capital and Community)」という学術研究誌で公開した研究を紹介します。

教師が教育経験を積むにつれて、その教育効果が向上するかどうかを明らかにすることを目的としたこの研究は、アメリカで調査された30もの先行研究を、批判的に眺め、レビューしました。それらの結果から見いだされた点は、次の通りです。

  1. 豊かな教育経験は、教師としてのキャリアにおいて児童生徒の学習成果の向上に、有意に影響があるということ。

  2. 教師が経験を積むと、児童生徒は学力テスト以外の文脈でも、成功体験を経験し、より良い結果を上げるようになること。

  3. 同学年・同科目・同地域で経験を積んだり、サポーティブで同僚性の高い環境で働いていれば、より効果的であること。

  4. 経験豊富な教師がいると、同僚も恩恵を受けることができること。

対象となった30の研究は、学年、科目、地域や、授業方法において、必然的に対象データが異なります。したがって、これらの多様なアプローチを試みた多岐にわたる研究のレビューがなされたことは、教育経験が児童生徒の学習効果にいかに影響していくかを分析する上で、体系的な学術研究の蓄積に寄与したと言えるでしょう。

もちろん、全ての教育経験が、教師にとって教育的であるものとは限りません。退職をしたり、休職をしたり、教育者としての仕事に不安を抱えている教師は多くいます。しかし、この研究の視点から言えることは、教師としてのキャリア全体を通して、経験豊富な教師の専門的スキルは、児童生徒と学校に大きな恩恵をもたらしてくれています

チームとして協働することが求められている学校ですが、教師の豊かな教育経験は、学校の機能をより強化してくれるものだと言えるでしょう。保護者や子どもたち自身が、教育の専門家として、日々、子どもたちの指導に従事している学校の先生たちとよりよい関係を維持しながら、適切なサポートを受けることは、ひるがえって、より豊かな教育経験を先生たちに積んでもらうことに繋がります。保護者や子どもたちが先生たちの教えを尊び、そのことで先生をサポートし、学校を安定させることには、とても大切なことなのです。

原文 Does teaching experience increase teacher effectiveness? A review of US research「教育経験は教師の教育効果を上げるのか?アメリカの研究のレビューから(筆者訳)」

https://www.researchgate.net/publication/334096687_Does_teaching_experience_increase_teacher_effectiveness_A_review_of_US_research

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