【詩】春ーー風船旅行

時は破裂した         
裸で蛇を抱いたのだ
腕の中に抱きしサクラ色のもの
にわかに枯木と変わり、蛇となり
火と燃えあがり、炎の舌がなめあげて
ぼうぼうと視界もこころも焼き尽くした
何処へ行くという当てもなく
何をするという目処もなく
春の地球にひとり浮く
今、俺は、煤だらけの黒い火ぶくれの風船だ
ちちははも、あにも、こいびとも
すべてが燃え尽きて灰になってしまった
火ぶくれの血だらけの風船が道の上
春の地球にひとり浮く
あくせくとあがいた日々がなつかしい
そしてこれは夢ではない
これがまったき自由というものだ
所有せんとするこころ
逢いたき人にまみえんとするのぞみ
ゆめというゆめ
ねがいというねがい
すべてが燃え尽きて灰になってしまった
春の地球にひとり浮く
空にこの、ぽっかりと浮かぶ浮揚感はどうだ
そしてこれは夢ではない
これがリアルなまったき自由というものだ
ではひとつ、風船の腹のあたりに針さして
さてひとり、出発するといたそうか
ぷしゅーーーーーと穴から悪い夢を吐き出して
あのまだ見ぬ真昼
あの大海原への旅へとさ
風よ、連れてゆけ
この風船をあたう限り遠くの空へと
生まれ変わるか否かはわからない
でも行こう
あの大海洋の上空へ
さあ行こう
春の風船旅行

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