果物を剥いた後に、手に残る香りが好きだ
果物を剥いた後に、手に残る香りが好きだ。
あのなんとも言えない残り香は、幸福のかおりがする、と思う。
みかん、りんご、もも、ぶどう。
なんだっていい。
ご飯を食べて、ゆっくりお茶を飲みながら、しゃりしゃりとりんごの皮を剥く時間も、ももの皮をつるりと剥けたときの嬉しさも、みかんを剥いて誰かにひとつあげるときも、手にはやさしいかおりが残るのだ。
幼い私は、どこかで見たりんごの皮を綺麗につなげて剥くのをマネしていた。
母や父が時たま買ってきてくれる桃を剥いてくれた後の手のにおいが好きで、よく手を出してとお願いしていた。
果物ってちょっと高くて、食べると染み渡るあの感じが好きだ。ビタミンなんて大層なことは分からないけど、じんわり滲み入る甘さやすっぱさは何者にも変えがたい。
大人になった今、果物を買おうかなと思う瞬間の心の穏やかさに気付かされた。誰かに食べてもらいたいな、自分頑張ったからちょっといいかな、ご褒美みたいなその幸福は、少し頑張れば果物を買えるようになった今だからこそ、分かるものだと私は思う。
祖父母の家に行くと、私は苺が好きだったので、毎回すごく大きな苺をたくさん出してくれていた。
一年に一回、父の知人の方からぶどうが届いた、宝石みたいなそれをみんなで食べた。
給食にたまに出てくる、ライチが苦手な子がいたので、わたしが代わりにひとつ貰っていたけど、久しく食べていないなぁと気がついた。
そうしてみると、食べたことのない果物なんかも気になってきた。スターフルーツとかってどんな味なんだろう。
果物に想いを馳せながら、さっき食べたミカンの香りがする指先をすこし嗅いで、また幸福が一つ生まれた。
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