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設計課題の評価について

先日、非常勤講師をしている学校のプレゼンがあった。受け持ちの生徒全員がクラスの全員に向けてプレゼンするものだ。その中で、プレゼンボードではそこまで目立たなかったのだがプレゼンで意味がガラリと変わった作品がいくつかあってとても面白い経験をした。

プレゼンボードや模型では何がしたいのかなぁと思いながら見ていたのだが、プレゼンを聞いてみて、その謎が解けたのだ。

彼はミースのファンズワース邸の様な空間を作りたかったのだ。なるほど、だからテラスに石を使いたいとか、白くしたいとか言っていて、ガラスを大きく使えないかなどを聞いてきていたのか。なるほど。
そう聞くと俄然面白い。大きな吹き抜けは広さが確保できない空間に対して縦方向で広さを出そうとしていたり、あえてセットバックをとり、柱を出させる事で
独立柱感を出したかったのだろう。
そうやって既存の空間の要素を個人的に一度抽象化して、再度解像度を上げて構成したのかと思うと、その過程自体に非常に意味がある気がした。

住宅設計と言う課題の中に、要求室を並べるだけではなく、自分なりの空間解釈を混ぜて提出しているのだ、まさに設計課題に対する答えといえるのでは無いだろうか。

講師をする立場になって、それなりに設計した物を評価する必要が出てきた。それは、なんとなくいいな…。と言う物ではなく、言葉にしないといけない。

そこでじっくり考えてみて、設計課題には複合的な評価軸があると考える様になった。あくまで設計課題の評価であるが。

大きなものは、『住宅』として成立しているのか?
という軸である。
要求された室や諸条件を解いているか。(破綻なく効率的にプランニングているか。)比較的与えられている条件が多いので、皆その軸に関しては問題ない。住宅の部屋を並べてプランニングすると事というのは比較的簡単にできている場合が多い。おそらく建築を勉強していない方でも時間をかければできると思う。

もう一つ大きな軸として構造的な軸である。
その建築が構造的に成り立つか、そして構造材が想定されているかである。上下階の重なりが木造であるなら柱や壁で破綻なく構成されているかである。これはなかなかに難しくなってくる。が、図形として解いていく事が出来る。上下階の壁のズレなどを注意しながらまとめて行けば良い。
その他にも、屋根の先端の破風の形状や、バルコニー防水の話などの、収まりの軸もある。

はじめての課題であればこの辺りを評価軸として行く。これらの軸は学校で授業を受けていれば大変であるが一定のレベルを出す事が出来ると思う。

そして僕の中で、大きな評価軸となっている物が、表現したい空間があるのか?そして、それをどう表現したのか?というがある。個人が好きな空間があるとして、それについて、何がその好きな空間を成り立たせているのかを抽出して、それを自分が作っている建築にどう解像度を上げて表現したのか?である。

例えば、今回のケースで言えば、ミースのファンズワース邸が好きだが、この建築がなぜ好きなのか、自分はどこが好きなのかを取り出す。そしてそれが、ファンズワース邸のどの部分の何の構成なのかと、抽象化して取り出す。
そしてさらにそれを、自分の建築の中にそれを表現するために具体的な部材や空間構成に置き換えるために解像度を上げる。
この一連の流れがあるのか?無いのか?が、建築設計の肝であろう。

そういう意味で、図面と模型を見ているだけではわからなかったものが、デザインプロセスを説明できるプレゼンを通すことで明確になり、空間的な広がりを想像できるようになる。

建築の課題なのだから図面などを見ただけで解るようにしよう!というのは簡単だが、実際にはじめての課題でそれが出来ない人は多いだろう。その補足としての意味でも全員にプレゼンであると思っている。

そうして彼はプレゼン前までは、あまり良くない印象だった作品を、建築として表現できて、建築としての評価を得ることが出来たと思う。
この建築は物としては平凡ではあったと思うが、はじめての作品で建築設計的な視座にたってデザイン出来たのだと思う。

で、この軸に気がつくと、設計は面白くなってくる。建築を見るのが結構楽しくなってくるのである。

抽象化→抽出→具現化

これは解像度のコントロールでもある。
『Powers of Ten』を見ると解るかもしれない。
是非とも見てほしい。

英語版  https://youtu.be/0fKBhvDjuy0
日本語版 https://youtu.be/paCGES4xpro


あらゆる解像度を行き来しながら、どの解像度にもその物を成り立たせている構造があり、素粒子レベルでは電子の構造があり、宇宙レベルでは銀河の構造がある。
このうちのどの解像度を選び、複雑な物から何を抜き出すか。そしてそれを再度落とし込むのか。
ここに建築家やデザイナーの個性が現れるのかもしれない。こう言う事が建築の設計においても行えると楽しくなってくる。

この事が設計課題中に見つけられている案はある程度評価している。コレは作品の評価では無く、学習としての評価をしている。
学生の設計課題においては、作品の評価だけでは無く、その過程にも評価すべきだと思う。その事を指導してあげようと思っている。

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