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建築を知る事

専門学校で設計を教えはじめました。
専門学校の生徒たちは基本的には18歳頃から多少幅がありますが、建築に初めて触れる者たちがほとんど。
そこで設計を本当に一から教えています。

彼らにとって初めての課題は、こちらから色々と設定を出しており、構造は木造の在来工法であったり家族構成であったり、規模であったり、いろいろなパラメーターを設定してあり、それを手かがりに各自が設計していくことになります。
基本的には自分が住むつもりで良いし、自分が好きな空間を作っていくとになるのだけど、そうは言っても、やはり難しい、まず何をするのかわからない生徒たちがほとんどです。

エスキス(スケッチの事で、設計の前段階でどういう方向性で進めようかと決める事。)も手順を追って指導していきます。敷地分析→コンセプトメイク→ブロックプラン→…。など。

「人がどう使うか想像して部屋を決める。」と言う建築を学んだ人には当たり前の事が、勉強する前はやはり想像出来ないようで、どこかでみたことあるようなプランニングになっています。
「リビング」は「リビングという名前の部屋」であってそこで行われるであろう「行為」を想像出来ていないようです。なので「リビング」と「居間」が二つ並んでたりします。両者は同じ物と言えるのだが、そこで行われる行為を想像出来ない為、若しくは結びつけることが出来ていないので、素知らぬ顔して並んでいて、微笑ましい。

もう少し言うと、「言葉」としては理解しているが、実際にその言葉の意味や概念を「使う」事ができていない事がわかります。
なので今、彼らがやっている学習は「言葉と意味を結びつけ」そして、それを「使う」事を学んでいる状態です。また、言葉の意味やそこに含まれる行為や概念を知ることで、言葉の解像度を上げて、それを利用できる様にしている最中です。

また、建築では実際に「空間」を作るのでこれが重要ですが、私は、空間は学習しないと身につかないと思っています。
空間の学習。それには実際に経験する事がとても重要です。経験を重ねれば、写真を見る事で類推していく事が可能になりますが、まずは多くの「空間」をそれと意識しながら経験する必要があります。
どういうものが好きなのか?この個人の嗜好ですら、初めての人は回答しにくい問いだと思います。

好きな空間はどんなものですか?

生徒が作ってくるエスキスを見ていると、住んでいる家がマンションか、ハウスメーカーの家なのかがわかる場合があります。自分の家を参考にしてるのでしょう。例えば廊下と部屋の関係や、玄関とリビング、水回りの関係を見ると、建売住宅のそれととても似ているのです。
そこから、彼らにとって住宅を設計することは、自分の住宅の経験から導かれる「知っている部屋」を並べることである事が、実例を持ってわかりました。

でも、学習の入り口はそこからです。初めは分からないので、真似る事から始めるしかないです。今は自分の家、その先に自分の好きな場所、そして建築家の作品、歴史的な場所、コミュニティの場所、広場…。そう言うものを見ていき、解像度を上げ、空間を成り立たせている要素に微分…再構築…。などなどしていき、空間の解像度を上げていく作業が始まります。

僕ら講師は空間には実は沢山のバリエーションがある教えてあげる必要があります。
こんな形の家があるよ。
こんな部屋があるよ。
これも家だよ。
この場所はどこまで設計されているよ。など…。

そうやって空間のバリエーションを増やしていくと、その空間を形作る要素が見えてくる時が来ます。
必ずしも仕切る事が部屋を作るわけではないぞ…など。

エスキスのチェックを数回行うとこの事に気がつき始める生徒がいます。そうすると自分で専門誌を開いたり、インターネットで調べます。インターネットでの検索は、何らかの『言葉』を入れないと検索できません。
初めは「家」だったものが「住宅」に変わっていったり、「リビング」で検索していたが「吹抜 テーブル  繋がり」など細かい言葉を使い検索します。
解像度が上がっている証拠です。

こうやって解像度を上げた先に、楽しさが見出せると良いなあと思っています。これは建築に限った事では無いはずです。あらゆる学問に当てはまるのでは無いでしょうか?
いやいや、学問に限らず興味、趣味、生活全てにおいて当てはまりそうです。
これが学ぶことの楽しさだと思います。

彼らには建築の設計に限らずものを見る視点の解像度を上げる事が楽しさに繋がる事を知ってもらえると良いなと思っています。

そして、多分これは生徒に限らないことだと思います。
僕は設計事務所をしており、時折相談に乗ったりしますが、クライアントも当然建築の勉強をしているわけではないので、住宅展示場に行っても、僕ら建築家の家については、なかなかわからないと思います。
たまたま、知り合いの家が建築家が建てた家に住んでいるとかそういう経験があれば、違うかと思いますが、そうでなければ言葉を知らないまま、まだみぬ空間が後ろに大きくあるのに、それを知らずにいてしまうかもしれません。

しかし、家が欲しい人が、専門家になるわけではないのですから、生徒と同じ様に調べたりする必要はないのです。その為に建築家がいます。
お家やお店、内装、改修など、なんでも良いので建築家に声をかけてみると良いと思います。
建築家は喜んで話を聞いて隠れている空間への道案内をしてくれるはずです。これは建築家が特に得意だと思います。

天気予報を聞く感じで建築家に聞いてみてはどうでしょうか?ぼんやりとしていた空間が輪郭を持って見えるようになるかもしれないですよ。

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