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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!これらの断片がいずれ大蛇のように長編物語へとつながるように、備忘録として書き続けております。勝手に動き回…
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#小説

短編:【思考する時、人は上を向く】

いつ誰に聞いたのか。 何かで観たのか。 『上を見れば果てしない。下を見たらキリがない』 たしか上を目指して自分なりに今を頑張れ、そんな言葉だったか。下を見て努力を怠るなという戒めだったような、そんな格言だった気もする。 近頃の鯉のぼりは、屋根より高いことはあまりない。川沿いで大量に吊るしていることもあるが、風が強い日にはくるくると紐に絡まってしまい、あまり美しくない。外国人観光客は珍しい光景だと必死に写真を撮っていたが、個人的にはどう撮影しても風情が感じられず、またその

【線路がつなぐ家族】(2022・秋)

そういえば、息子と二人きりで電車に乗ったことは無かった。 そこには常に妻がいて、大体が息子は妻と話していることが多かった。 息子は今年の春に、幼稚園の年長さんになる。 しかし今こうして、私の手を握りしめている小さな掌は、木の葉のように弱々しく、これからこの手で掴む夢がどんなモノなのか、非常に興味がある。 「この線路をずっと行くと、ママがいるんだよね」 ふいに話し掛けられ、一瞬戸惑う。 「ああ、そうだね。この線路をずっと行くと、ママがいるよ」 「ママ…待っててくれるかな…」

【リモート社員】:#2000字のホラー

この会社に入社して、半年が過ぎた。 20名弱の会社だから、社員全員の顔も名前も覚えたはずだった。 「山田さん、ちょっと良いですか?」 なに?と気さくに答えてくれる教育係の先輩に、気になっていたことを聞いた。 「いまはこんなご時世ですから、在宅も多くて、でも常に出勤している人って…8〜10名程度じゃないですか…もしかして私がお会いしていない方が、まだいらっしゃるのでは?」 「ん…一応リモートも含めて、野村さんは、ひと通り会ってるんじゃないかな?なんで?」 「ほら、あそこの座席…

【その光が落ちたなら】

儚ければ儚いほど、その雅な輝きは美しい。 季節の終わり、ひとつの終止符。 線香花火という風物詩は、火薬の量が多ければ、広く火花を広げるが、その反面、その重量で核となる火の軸が大きくなりすぎて、すぐに落ちてしまう。そして細く巻かれた先端から、徐々に太い部分に達し、一番華やかな光を放っている時こそが、最もその火の軸がポツンと切れやすく、それはまるで人の生き方や人気職業にも似た危うさに酷似している。 そう儚く感じてしまうからこそ、夏の夜の線香花火は美しい… 「バブル時代の恩恵なん