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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!これらの断片がいずれ大蛇のように長編物語へとつながるように、備忘録として書き続けております。勝手に動き回…
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#ナレーター

短編:【思考する時、人は上を向く】

いつ誰に聞いたのか。 何かで観たのか。 『上を見れば果てしない。下を見たらキリがない』 たしか上を目指して自分なりに今を頑張れ、そんな言葉だったか。下を見て努力を怠るなという戒めだったような、そんな格言だった気もする。 近頃の鯉のぼりは、屋根より高いことはあまりない。川沿いで大量に吊るしていることもあるが、風が強い日にはくるくると紐に絡まってしまい、あまり美しくない。外国人観光客は珍しい光景だと必死に写真を撮っていたが、個人的にはどう撮影しても風情が感じられず、またその

【なれとります】#04「日々是勉強」

「今回はですね、男性、女性の掛け合いとなります」 「掛け合い…」 「あ、もちろん女性ナレーターさんもお呼びしてあります」 ナレーターというは摩訶不思議な仕事である。ただ紙に書かれた言葉を音にするだけではなく、時には声だけでお芝居をしたり、書かれた言葉をメロディーにして歌い上げたり、その1枚のナレ原からは想像できない多くの可能性を秘めているという、普通の感覚では理解しがたい職業だと思う。 「アハ…ですよね。いや、たまに声色変えてのひとり芝居なんてありますから、つい」 「ですよね

【なれとります】#03「感銘とリスペクト」

『“1を100にする”のは比較的簡単なんです。在るものを膨らませれば良い訳ですから。本当に大変なのは、“0を1にすること”。無いものを生み出すことが非常に大変で、これを創造できる存在が、今後求められる人材です』 モニター前の赤いランプが灯る。 「そう語る石田社長のモットーが…」 『常にアンテナを立てて、新しいものや、人と違う才能を育てることに注力しています…』 『ハイ、ありがとうございます〜!プレイバックしま〜す』 ナレーターの仕事には、誰かのインタビュー映像に接続詞を入

【なれとります】#02「発音は大事」

「ハイ、OKです!頂きました!」 元気な監督さんが明るく言った直後のこと。 「いまの、発音…大丈夫ですか?」 ナレーションブースの外、ミキシングを行う部屋の後ろに座っていたクライアントさんが口を開く。 「発音ですか?…ちょっと、プレイバックします〜」 トークバックを押してナレーションブースに声が届く。 『そう!採れたてのワカメは栄養が豊富!』 自分が読み上げた声がヘッドフォン越しに聞こえて来る。監督さんが何やらクライアントさんと話している姿が、ガラス窓越しに見える。 意外と

【なれとります】#01「全国無料が言えなくて」

『スミマセーン、“無料”をもっと有難そうにお願いしま〜す』 「あ、はい…」 マイクごしに返事をする。 ここはナレーションを録るブース。 最近流行りの通信販売商品のCMを録っている。 ナレーターと言うのは、不思議な仕事だ。 15秒のCMでたった一言キャッチコピーを読んでも、逆に60分の長い番組でたくさん読み上げても、正直ギャラはあまり変わらない…大概が年契と言って、年間契約やレギュラーといった形で拘束される仕組みが採用されている。 そしてこういうカッチリとしたナレーションを読