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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!これらの断片がいずれ大蛇のように長編物語へとつながるように、備忘録として書き続けております。勝手に動き回…
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2023年11月の記事一覧

短編:【シグナル】

「世界共通の合図ってご存知ですか?」 「合図ですか?」 夜景のキレイなホテルのラウンジ。横並びでカウンターに座る三十代くらいの男女。真面目で堅苦しい印象のふたり、まだ深い関係ではないのだろう、お互いが探り合いをしているような会話が続かない感じ。 沈黙が周囲を包んだ時だった。 「例えばですよ、よくあるじゃないですか…銀行強盗が押し入って、気づいていないほかの人たちに何かを知らせたい場面とか!」 男性が頑張って、セリフのような言葉を絞り出す。 「強盗ですか?ん〜ドラマや映画な

短編:【予約の取れない人気店?】

『お越し頂いたこちらのシェフ!何と!3年先まで予約が埋まっている、超人気店の…』 テレビの矛盾はとてもツライ。 「何だよ、3年先まで予約が埋まっているんだったら、テレビなんか出ないで、その時間店を開けばもっと多くのお客が味を堪能できるじゃないか!それともなにかい?テレビ出演は3年以上前から予約していたのかい?」 「違うんだよ、そもそも定休日とか、夜だけ営業のところ時間を割いてテレビに出て宣伝しているだけなんだよ。もっと言えば、もうこの人が店に立たなくてもお弟子さんとかが店

短編:【お忘れ物】

駅の公衆トイレに貼られた一枚のポスターを見た瞬間、無意識に便器の方へ振り返り、ズボンの後ろポケットを探っていた。 【落し物・忘れ物はありませんか?】 乗り換えついでに入ったトイレで忘れ物は無い。朝から天高く快晴の秋空がのぞいていたから傘も持ってきていない。ケータイも胸ポケットに入っている。なのにその一言にソワソワしていた。 【忘れ物】…? 転職活動の面接の日。普段着慣れない、紺色のスーツを着て来た。だからこそ通常と違うポケットに入れたモノが気になってしまう。 「忘れ物なんて

短編:【運転免許証更新曲】

この三連休の初日は祭日だった。誕生日が近い僕の元には免許更新を知らせるハガキが届いていた。正直、とても憂鬱だった。 ご存知の通り、運転免許証の更新は数年間隔で個人個人の誕生日を境に一ヵ月ずつの猶予があり、それを越えると結構面倒なことになるので、いつもいつもなるべく早め早めで行動をしている。 さて何故憂鬱なのかを共有しておくと、少し前の春先のこと、車で買い物へと出かけた際に、普段通らない道を使っていた。日曜日ということもあって交通量が多い日だった。春の交通安全週間という特別

短編:【言葉の通じない人々】

「今日さ、話題の場所に行って来たんだよ!」 「話題の場所?」 新宿の居酒屋で若者3人が呑んでいる。 「これ!」 「あ〜渋谷ね。渋谷はハロウィーン会場ではありませんってアレね」 「自治体のトップが、来ないでくださいってヤツ!」 大ジョッキのビールを呑みながら笑っている。 「あれって逆効果だよね!来るなと言われると、逆に〜みたいな…」 「あるある!」 「これは売れていて手に入らないって言われると、無性に食べたくなる的な…」 「けどさ、何しに渋谷行ったの?」 「え、新宿来るついでに