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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!これらの断片がいずれ大蛇のように長編物語へとつながるように、備忘録として書き続けております。勝手に動き回…
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2023年9月の記事一覧

短編:【しょうもない嘘】

人は時として「しょうもない嘘」をつく。 「ごめんなさい…電車が遅延しちゃってて…」 彼女は小走りで駅ロータリーの待ち合わせ場所にやって来た。 「あ、大丈夫です。僕もさっき時間通りに着いたので、待たせてしまったんじゃないかと心配していたので…」 「しょうがない嘘」が罪のない切羽詰まった仕方ないものだとするならば、「しょうもない嘘」はそれ以前のどうでもよいくだらない嘘。犯罪に加担するような大それたものまで、嘘のランクも様々あれど所詮、嘘は嘘。それによってすべてを手にすることも

短編:【在宅授業】

ある程度年齢を重ね一人暮らしをしていると人の声が聞きたくて、見もしないテレビをつけっぱなしになってしまう。それをぼんやり眺めていると普段は気にも止めないのに、これは有意義だと思える情報が突然飛び込んでくることも、たまにはあったりする。 『シニアに大切なのは【きょういく】と【きょうよう】です。分かりますか?』 昼間の情報バラエティー。お名前は何といっただろうか?かつて人気のあったコンビ芸人さんが司会をしていた。もうひとりの方はどうしたのかしら?どうでも良いことを無意識に考え

短編:【夏の終わりの物語】

午後の車窓から入る強い日差しと、対象的に寒いぐらいに効いているエアコンで、頭の中にマーブル模様の渦巻く様子がイメージ出来る。 たとえ乗客が1車両1人だったとしても、その電車は走り続け、誰も乗らないドアは開閉し、せっかく冷えた車両を一度常温に変えてしまう。 カバンに着けたマタニティマークが揺れる。これだけ車内がガラガラなのに、優先席に座ってしまう習慣が情けない。 少し離れた場所から、その視線を感じた。 隣の車両、そのもう少し先のような気もする。しかしこの車両と同様に、隣

短編:【後悔先に立たず】

人生には、少なからず後悔することがある。 僕に至っては後悔だらけの人生である。 あの時こうしていたら、あんなこと言わなければ、何でこっちを選んでしまったか… そんな後悔を忘れるには、リセットボタンを押せば良い。ゲーム機にもあるだろう「Reset」と書かれたボタンが。 人生のリセットボタン。 それは何だろう。 すべてを一度失くしてみる。シガラミというモノから解放されることで、少なからず救われることもある。仕事を辞める。旅に出る。すべての人間関係を切る。一旦、橋の上から飛