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短編:【スエトモの物語】

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短編小説の物語はこちらです。 ◉毎週1本以上、継続はチカラなりを実践中!これらの断片がいずれ大蛇のように長編物語へとつながるように、備忘録として書き続けております。勝手に動き回…
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2023年6月の記事一覧

短編:【雨のち凪】

増水した川では、生臭い水が溢れそうに揺らめいていた。その淵の柵を越えてしまえば、簡単に藻屑となって川に流れて消えることもできるかも知れない。 「どざえもん…」 不謹慎な言葉が口を出る。 言葉の意味を知った後でも、その響きが幼い頃に好きだったアニメ漫画の名前に似ていたこともあって、非常にポジティブな印象があった。 昔の川はもっともっと汚かった。学生時代は川の横にある学校に通っていた。そこではカヌー部があって、県でも指折りの強豪校だった。帰宅部の私は、校舎からその練習風景をぼ

【なんて素敵なディスプレイ】#01

すべてのモノにドラマがある。 「ヒーローとして生きるって…大変だよな…」 「ヒーロー?」 「ほら…あれ」 「あ!定食屋の客引きしてるじゃん!」 「だろ?」 「M7じゅう…なんだっけ?なんか銀河系の遥か遠い所からやって来てさ」 「いわゆる出稼ぎなワケだ…やっぱり、家族とか多いと稼ぎ頭は大変なんだろうな…」 「怪獣が現れれば活躍の場もあるだろうけれど、なんだな…最近では、街とか人間の暮らしを壊してしまうとか、倒した怪獣の始末が大変だとか、とにかく肩身が狭くなっているのは間違いな

短編:【明日から先輩ではない私】

「結局、何時までにあげるんでしたっけ?」 いかにも間に合いません!と言いたげな語尾の強さで、彼は私の顔も見ずに声を上げた。 「今日中…と言っても先方の営業時間は6時迄だから…遅くとも5時とか5時半迄に…」 返事はない。 キーボードに怒りぶつけるような力強い音をさせて打ち付けている。チッという舌打ちの代わりにマウスをカチカチと鳴らして、時たまケータイの時刻をチェックしている。 彼は何年後輩だったか、入社当時は照れたように頭をかきながら、何でも言ってください!なんて可愛らしい言

短編:【見上げた屋上にはウミネコ】

ブルーテントから顔を出し見上げた空は、そのテントの青さと同じような色をしていた。下町の川沿いに並ぶブルーテントは、傍から見て感じる想像よりもはるかに頑丈で、多少の台風程度であれば凌げてしまう。事実昨晩上陸した大型台風によって、川の水量は増加し、ブルーテントの上と中は水浸しとなってしまったが、丈夫な骨組みはビクともせず、こうして翌日のお天道様を拝ませて頂けた。 半年程前から、私はここのお世話になっている。朝はお日様が出る前に街へ行き、ゴミ収集車が通る前の資源ゴミを回収する。資

【街で見かけた看板で】#06

「俺けっこう、こういう洒落の効いた看板、好きなんだよね…」 カフェの入り口に、折りたたみ式の立て看板が出ている。 「何これ?春夏秋冬?」 「知らない?良く見てご覧よ」 「春夏秋…あれ、春夏冬…ナカ…?何これ?どういうこと?」 「想像力ないなあ…もう一回読んでご覧よ」 「春・夏・冬・ナカ…間違いじゃないの?」 「わかんない?」 「秋…秋ナカ…秋が無い…秋ない!」 「だから!」 「商い中!」 「洒落てるよね…」 「商い中…お店がやってるってことだ!」 彼女とのデートでやってきた下

短編:【うどんとそば】

「オレさ、お前のこと好きだったんだよね」 椅子の高いカウンター席で横座りをしていながら、セルフで取って来たうどんを一本、ズルズルとすすりながら、ヤツが言った。 「はあ?あんたね、チェーン店で一杯400円のうどん食べながら、なに勝手なこと言ってるのよ!」 「いや、好きだったんだよね…学生の頃」 いかにも軽い気持ちで昔話をしました、という感じで無表情の回答。 「そういやぁさ、うどんと蕎麦の違い、知ってる?」 「え、もう…その好きだったって話は終わりなの?」 「続けたい?」 「そ