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★【作者と読者のお気に入り】★

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◉たくさんのビューとスキを頂いた作品と、個人的に好きなモノだけをギュッとまとめてお届け!30作品程度で入れ替えしながらご紹介。皆様のスキが集まりますように(笑)お気に入りの玉手箱!
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#写真

短編:【思考する時、人は上を向く】

いつ誰に聞いたのか。 何かで観たのか。 『上を見れば果てしない。下を見たらキリがない』 たしか上を目指して自分なりに今を頑張れ、そんな言葉だったか。下を見て努力を怠るなという戒めだったような、そんな格言だった気もする。 近頃の鯉のぼりは、屋根より高いことはあまりない。川沿いで大量に吊るしていることもあるが、風が強い日にはくるくると紐に絡まってしまい、あまり美しくない。外国人観光客は珍しい光景だと必死に写真を撮っていたが、個人的にはどう撮影しても風情が感じられず、またその

短編:【ユメのない夢】

病院の診察室。白衣男性の前に座る若い女性が語る。 「ちょっと信じて頂けないかと思いますが…」 カルテにはスズキユミコ 27歳とある。 「夢を見るんです。あの夜寝た時に見る…」 「眠りが浅いんですかね…」 「あ、いえ…夢を見ることは良しとして…」 何か言いにくそうに戸惑っている。 「どうぞ気になることをお話し下さい」 「はい…その夢が…その…」 先生は親身に静かに次の言葉を待っている。 「すべてですね…その…ミュージカルなんです…」 言い終わると静寂が流れる。 女性はとんで

短編:【クレーム、または罪深い人類へ】

「だいたいさ!オタクの商品、効果が無いんだよ!」 『そんなことはございません…』 「うるおいをもたらし、命を救う?」 『…はい』 「サラサラで、無味無臭?」 『そうです』 「安価でお得?すべての国民に必要だと?」 『その通りでございます…』 「過大広告だろう!謝罪しろ!」 『お客さま…いま、お試し頂けますか?』 「い、いま?」 ゴクゴクゴク… 『いかがですか?解約されますか?』 「…」 『良いんですよ、この世界から“お水”と言う、万能な商品が消えて

短編:【職を決める】

「農業は天候に左右される。漁業も自然の影響を大きく受ける。どちらも鮮度が重要視され、収穫から消費者へ届けるスピードが求められる。流通はそのスピードが命である。物を製造する場合は、職人の技術力や大規模な機械導入がある。在庫管理する場所の確保も必要で…」 郊外型の広いファミレス。向かい合わせに座る男性ふたり。 「で、何やるか決まったか?」 スーツ姿の男性が、ホットコーヒーを飲みながら聞く。 「そこなんだけどね…」 白いパーカーにジーンズの男性がアイスコーヒーのグラスに口をつけず

短編:【知らないとこから、こんにちは】

「今日さ、SNSに知らない外国の人からコメントが来たのね…」 「どんな?」 「この写真、素敵ですね、どこで撮影したんですか?って」 女性3人でフレンチを楽しんでいる。 「あ〜、デタ〜たまにあるよね〜」 「やっぱたまにある?」 「この猫ちゃん、可愛いですね、何歳ですか〜とか」 「あるある!欧米の人とか!」 「え〜私はアジア圏の人だったよ〜」 届いたマルゲリータを裂きながら皿に取り続ける。 「やっぱりあれって、何かの詐欺なのかな?」 「ロマンス詐欺的な?男性からなら疑っちゃうよ

短編:【何か問題でも?】

「なんか『2025年の壁問題』ってのが大変みたいだね」 「なに、朝、テレビでやってたの?」 「そう。なんかね、2025年に世の中DX化が激化してプログラマーが不足して様々なシステムが麻痺するとか何とか…」 プッチンプリンが店頭から消えて、情報番組がこぞって伝えていた。 ファミレス。4人がけの席に向い合せの女性ふたり。 「なになに?なんの話?」 3人目の女性がドリンクバーのグラスを持って席に着く。グラスの中身は、この世のモノとは思えないような色をしている。 「2025年の壁

短編:【仲睦まじく】

「ちょっと惜しかったね」 リビングで妻と息子が本日のミニテスト結果を見ている。 「どうしたの?」 帰宅した夫も会話に参加。 「これね、“なかむつまじい”を漢字に…って」 「ああ、結婚式のスピーチでも使うよね、“末永く仲睦まじくお過ごしください”って」 「僕、陸上クラブだから…」 「仲“陸”まじい。って睦を陸って書いちゃって…」 「クラブのみんなと仲良く、陸みたいな字って覚えたからさ…」 息子は少し悔しそうだ。 「睦まじいってさ、“親しい”より深い関係なんだってよ、意味的には

短編:【隣】

「ママ、見て!落とし物!」 「落とし物?…じゃないわね」 「ケーサツにとどけないと!」 「なんだろうね…あ!触っちゃダメよ!」 最近、公園や街の中で、こうしたバッグを見かけることがある。 「ちょっとパパに…」 写真を撮って、ショートメールで送る。 「あ、パパから…」 会社のパソコンで検索してくれたようだ。 『格安ポスティング業者』 これはどうやら、家やマンション・集合住宅などのポストに入っている、ビラやチラシ広告を投函する業者が置いていることがわかった。 「え、これ…ここ

短編:【不甲斐ない】

市長が辞職した。 彼の口癖は『不甲斐ない』だった。 『いや〜ホント、不甲斐ない!私が不甲斐ないばっかりにこんな事態に…』 「ねぇこの市長さ、ずっと謝ってないよね…」 姉ちゃんがリビングでポテチを食べながらテレビにボヤいている。 「“不甲斐ない”って言ってるよ?」 僕は冷蔵庫の牛乳をコップに注ぎながら応える。 「違うんだよ、不甲斐ないって、情けないとか、意気地ないって意味なんだよ」 「あ〜、そうなんだ」 「“不甲斐なくて申し訳ない”、だったら謝罪になるんだけど、“私が情けな

短編:【カフェにて(恋のリベンジ篇)】

通り横にあるそのカフェは、電源やWiFiが自由に使えることもあり、保険の勧誘、金品の営業販売、中には芸能事務所の面談や、ノマドワーカーなど、ちょっとクセの強い客が多く訪れ、なにより長居をしていてもあまり迷惑そうな顔をされないことが魅力の店だった。 私は、そのカフェまで徒歩3分の激チカ物件に住んでいた。あの日以来、…正確には数週間前、長く付き合っていた人と別れてから、暴飲暴食をしてはトイレで吐く、過食症にも似た行為を繰り返してしまう日々を過ごしていた。部屋にいると気が滅入って

短編:【最初から結論ありき】

「そのお話…、エビデンスは何ですか?」 「エビデンス?」 「根拠です!」 「いやいや、意味はわかっていますよ。エビデンス、なんて…ありません」 立派な応接ソファーに座った男性は静かに足を組む。 「いいですか?…そもそも人類は朝と夕方二食で暮らす生き物でした。それをトースターを考えた偉い発明家さんの思案で、朝昼晩の三食にすることで、トースターも売れて、パン屋も儲かった」 「ああ、まあ、有名なお話ですよね」 「土用の丑の日。夏場にウナギ。これだって、そもそも冬場に脂の乗るウナギ

短編:【花の教え】

「最近の桜って花びら白いよね…」 彼女はそういう敏感な感性を持っていた。 「白い?」 僕には、桜の花びらがピンクに見えていた。いや、そう思い込んでいたのかも知れない。周りを見渡すと、至るところで花吹雪が舞っている。 僕には20年間、彼女がいない。奥手というか、人付き合いが苦手というか。大学に進み、同じゼミを専攻した彼女と出会った。 「もちろん品種によっても違うだろうけど…昔の花吹雪ってもっとピンク色だったと思わない?」 「ああ、そう…かもね…」 話を合わせてみる。 「自

短編:【神が授けた一日】

目を覚ますと、あたりは真っ暗だった。 「3時?」 ベッド横のデジタル時計は3時5分を表示している。 「あれ?昨日…」 頭の中で記憶を辿る。 「有給消化をしないとペナルティになるからって…」 そう、溜まりに溜まった有給休暇を期限までに消化するようにと注意された。なので、すぐに申請をした。 「明日は休みだからって…」 よく行く居酒屋で呑んでいた。 「仕事終わってからだから、10時からだったっけ…?」 途中から記憶が無い。 「常連さんが来て…あのあとどうした?」 ケータイを探し、何

短編:【ガラパゴス】

「先輩…もう限界です!」 今年入社の新人さんが、1ヵ月も経たずに愚痴りだしている。 「なになにどうした?」 教育係の私は、愚痴を聞いてあげるのも仕事である。とはいえ、たかだか3年前に入社した私も、いまの会社に不満がない訳では無い。会社からちょっと離れた小洒落たカフェで、新人の彼女とランチを摂っている。 「この会社!もう終わってますよ…」 「なに、課長になんか言われた?」 「課長だけじゃないです!部長もそうだけど…完全にガラパゴスですよ!ガラパゴス!」 「ガラパゴス…」 最近