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★【作者と読者のお気に入り】★

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◉たくさんのビューとスキを頂いた作品と、個人的に好きなモノだけをギュッとまとめてお届け!30作品程度で入れ替えしながらご紹介。皆様のスキが集まりますように(笑)お気に入りの玉手箱!
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2023年5月の記事一覧

短編:【思考する時、人は上を向く】

いつ誰に聞いたのか。 何かで観たのか。 『上を見れば果てしない。下を見たらキリがない』 たしか上を目指して自分なりに今を頑張れ、そんな言葉だったか。下を見て努力を怠るなという戒めだったような、そんな格言だった気もする。 近頃の鯉のぼりは、屋根より高いことはあまりない。川沿いで大量に吊るしていることもあるが、風が強い日にはくるくると紐に絡まってしまい、あまり美しくない。外国人観光客は珍しい光景だと必死に写真を撮っていたが、個人的にはどう撮影しても風情が感じられず、またその

短編:【策士策に溺れる】

「ヒロくん、お夕飯何食べたい?」 「ハンバーグ!」 「ハンバーグかぁ…」 息子にヘルメットを着用し、自転車の後ろに座らせる。幼稚園に迎えに行った帰り道。まっすぐ前を見て家路を急ぐ母親の顔に笑顔は無い。ペダルを漕ぐ足取りも重く、早く電動アシストが欲しいと思いつつ、先にヘルメットを買わなくてはと心の片隅では考えていた。 「お肉が食べたいのかなぁ」 「お肉が食べたいけど、ママのハンバーグが食べたい!」 「ママのハンバーグかぁ…」 今日は疲れてしまって、気分的にはあまり面倒な料理をし

短編:【まかないの味】

僕がその日本料理屋の厨房をアルバイトに選んだのは、素直にまかないが食べられることで食費が助かるためだった。大学進学と共に東京へ出て来たものの、思い描いていた学生生活ではなかったことは明らか。大学二年の春になると一連のウィルス騒動はひと段落し、やっと本格的な対面授業が再開された。再開と言われても1年の間、正直数える程しか教室にいることはなかった。上京した頃はどんなバイトを選んだら良いのかわからなく、少なくとも生きて行くための食費を捻出すると共に、和食が食べられる、ただその一心で