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架空のリアルな女性譚「わたしたちは無痛恋愛がしたい」を読む- だからわたしはピルに頼ることにした-

彫刻家の友人Yちゃんが薦めてくれた瀧波ユカリの漫画「わたしたちは無痛恋愛がしたい」を読んだ。月に一度、わたしは生理が来ると同時に廃人と化して布団の中でiPhoneの画面を見ることしかできなくなる。この期間に、なんとなく読むなら今だと思った。

世の女性達はみんな、どこまで己の身体を管理している(或いはしていない)のだろうか。同じ世界を並走している女性間でも、自分自身のケアにどこまで心を砕いているのかは見えづらい。
この漫画は、VIO脱毛や生理への対策といった身体にまつわる物理的なケア事情などライトに知りたいものから、街中ですれ違うごく普通の人々の間で起こりうる異性間のトラブルや逸脱行為まで描いている。
例えば、駅でのぶつかりおじさんやナンパ師との遭遇や美容師からのセクハラ、配偶者からのDV、チャイルドグルーミング(成人による未成年への性的虐待)について。
悲しいことにこの世には、人を人として見ずに記号化して、勝手に傷ついたり馬鹿にしたり腹を立てて暴挙に出る人が存在する(それは異性間のみならず、同性間でも普通にある)。

ああ、そういえばあったわこういうこと。
と、この漫画を読んで、かつて自分にも降りかかってきた、さっさと忘れてしまうに限る忌まわしい出来事を思い出したりもした。


***
「無痛恋愛」。面白い造語だと思う。
わたしは「無痛」とは、実際には痛んでいるけれども、何かを投与して感覚を麻痺させることで痛みを感じなくさせている状態のことだと解釈している。この漫画が指す無痛もそういうことなのだろうか。

生理は日常生活を阻むマイナスの現象だとしたとき、ピルの服用は痛みやPMSを緩和させてゼロ地点に近づける行為になり得るらしい。
生理痛、PMSの程度には個人差がある。
わたしは鎮痛剤が効くまでは子宮が絞られているような収縮の痛みがあるし、寒いと腰も痺れてくるし、薬が効いたら効いたで下半身が浮いてる感覚で歩いてる気がしない。
生理前のPMSは無限に食欲が湧くかと思えば、始まると初期2、3日間は食欲がゼロになる。
身体の痛みや食欲の乱降下による疲弊に加えて、普段は気に留めない些細なことが気になったり、安楽死について調べたりする。

シャワーを浴びようとしたときふいに、本当にふいに、
こんな調子じゃ、他に使うはずの気力体力が残されていなくて当然では?と思った。
自分の身体に毎回振り回されることが当たり前になりすぎているし、受け入れすぎている。
この状態のとき、わたしはチョコと安楽死に同じくらいの救いを見出しているけれど、ただのホルモン異常による食欲と希死念慮が交互に来ているだけの苦しさから出てくる発想はかなりプリミティブで、このままでは、わたしが欲しい、何か発見した気持ちに近いような、目の覚めるような心躍る領域にはいつまでも行けないのではないだろうか。

空のバスタブの縁に腰掛け、そんなふうに思ってしまった。
自分の生理現象に付き合いきれないことを認めたなら、医療の力を借りて管理するしかない。
翌日わたしは婦人科に相談し、低容量ピルを処方してもらった。

***
生理期間中、どんな有様なのか。
これを書いている最中にインターフォンが鳴った。
横着してモニターを確認せずに出てみると、知人(50歳♂)が立っていた。近くにきたから立ち寄ってみたらしい。
着替える気力がなくパジャマのまま床に転がっていたわたしは髪も梳かさず顔も洗っておらず、両腕には知人を威嚇する猫を抱えていた。
その地獄みたいな出立のわたしを見るなり、知人は「寝てたの??」と呆れている様子だった。

悪いかよ。アポなし訪問する己の無神経さを省みよ。
善良な人であることは知っているけれど、
わたしはこの期間、人を受容するのに時間がかかる。
というかできそうもない。
己の肉体の格闘中に、ご機嫌なコミュニケーションをとれる人なんて存在するのだろうか(否、いない)。

知人を追い払った後、威嚇をやめた猫(1歳♂)がわたしのほっぺたを甘噛みをしてきた。
いつもなら「かわゆ❤︎」と甘噛み返すのだけれど、このときは頬はいつもよりヒリヒリと痛み、猫相手に「ばかぁ」と言った。泣きたい気分だった。

猫はすこし困った顔をしてわたしをみていた。
それから彼はMacBookのキーボードから降りていった。
画面には


えええええええ4、、、、、、


と彼の戸惑いが残されていた。


わたしはわたしの周りにいる大切なものをいつまでも大切にしたい。
ただそれだけなのである。
ピルはきっとわたしの舵取りをわたし自身に返してくれるはず。
そう期待している。



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