早朝のひぐらしと朝焼け
朝、薄明るい光がカーテンの隙間より漏れ出でて、部屋の中がぼんやりと明るさを帯びて来る。
徐にその光芒を見つめ、数秒の後えいやと威勢良く起き上がる。
その勢いのまま窓辺へ擦り寄り、バサッと言う大きな音を立ててカーテンを開く。
ガラス窓越しでも聞こえて来るのはひぐらしと小鳥の大合唱。
それに微かな一番鶏の雄叫びも混じっている。
絵付けの叔父さんところの雄鶏だ。
闘鶏のように勇敢で、赤い鶏冠の立派ななりをしている。
窓を開けると、それらが一層甲高く響いて来る、まるで高波の押し寄せて来るよう。
朝がやって来たのだ。
僕は真っ先に、涼やかなフロントガーデンへ出る。
太陽はまだ地平線の下、その色は既に地上へ溢れているが。
大きく伸びをして、早朝の畑をひとしきりぐるりと見回すと、蛇口へ取り付けられたホースを握る。
蛇口を捻れば勢い良く水が飛び出すので、慌てて調節し植物へ水を遣る。
葉には極力かけぬよう、根本へ、根本へ。
彼らは喜悦に満ちて輝き始める、それは散り散りになった星屑のよう。
新しい朝の訪れを待ちわび、今ようやく桃色の空を見た。
日は昇る。
バックガーデンへ丘を登りつめると、顔を出し始めた朝暘と目が合った。
風は無く、ただ清純な空気の匂いがする。
新しい芽の匂い、柔らかく湿った土の匂い。
一歩、一歩、踏みしめて、バックガーデンも水を遣り終えると、傍らのベンチへ腰を下ろした。
目を閉じても浮かぶ杉や檜の爽やかな森の姿。
遠く建ち並ぶ美しい建築物の集落。
街路灯。
僕は不図思い立って、腰を上げた。
忙しなく戻って来た僕の手に掲げられていたのは籐の籠。
ししとう、オクラ、きゅうりにゴーヤ。なすにいんげん。
どれも艶々と血色良く健康そうに見える。
その豊かな恵みに思わず零れる。
「有難う・・・。」
小さく息を吐いたら、朝焼けの中にひぐらしの声が溶けていった。
ひぐらしと言えば幻想的だ。
そして、その鳴き声が何処となく不気味に感じるのはきっと、僕の偏見だろう。
夏の終わり、夕方にはひぐらしが鳴く、それは子どもたちの怪談の始まり。
幾多もの怪異を経験した僕には、如何してもその印象が結び付いてしまう。そして、それは何時の日か、懐かしい想い出として懐古されるのだ、ちょうど今の僕のように。
と、気温の上がり始めた庭でぼんやりと考えた。
朝が終わる。
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