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「名探偵コナン」は一年延期、劇場アニメそれぞれの選択

■公開は一年後を決断「名探偵コナン」と「アンパンマン」

新型コロナ感染症に端を発した自粛要請は、多くのエンタテイメントに大きな影響を与えました。映画興行はそのひとつで、公開延期は主要作品はだけでも70本以上です。5月の映画配給主要12社の興行収入は前年同月比で99%減と厳しい結果でした。

6月にはいり自粛要請が解除されると、映画興行も新作公開に徐々に動き出しました。劇場アニメでも新たな公開時期が告知され始めています。劇場アニメの延期は現状で30本程度ですが、新しいスケジュールには、それぞれ戦略の違いも見えます。
なかでもファンや関係者を驚かせたのは、4月17日に予定されていた『名探偵コナン 緋色の弾丸』の21年4月、一年先への延期でしょう。前作『紺青の拳』は興行収入93.7億円、本作では100億円超えも期待されていましたが、毎年恒例のシリーズを一年お休みする思い切った決断です。
『それいけ!アンパンマン ふわふわフワリーと雲の国』もこれに続きました。6月26日公開予定であった本作は21年夏に持ち越されます。

■シーズン替えから配信移行まで

国内劇場大型アニメは、毎年同じシーズンに公開する“定番作品”が多いことが特徴です。春休み、GW、夏休みにフォーカスし、タイアップやテレビシリーズ放送も連動させます。巧みなマーケティングは緻密に計算されるだけに、少しのずれが効果を減じます。それであれば一年間ずらし、立て直すのは合理的な選択です。
もちろん一年の延期はマイナスもあります。作品が先送りされることで、今年入るはずだった収入がなくなります。体力のある放送局、大手配給会社は耐えられるかもしれませんが、事業規模の大きくないアニメスタジオには打撃です。
一年延期を決めた『名探偵コナン』、『アンパンマン』のアニメーション制作は、トムス・エンタテイメントです。巨大なセガサミーのグループ会社で、売上げでは両作品も含めたライツ収入もあります。アニメスタジオのなかでは経営体力があることが、2020年は耐えるとの厳しい選択を可能にしたのかもしれません。

『映画ドラえもん のび太の新恐竜』、『劇場版ポケットモンスター ココ』は、異なる選択をしました。もともと春休みに予定していた『ドラえもん』は早々に8月7日に変更、夏休みにあらためて勝負をかけます。『ポケットモンスター』は7月10日から20年冬に移動し、夏休みから冬休みにターゲットを変えました。

劇場公開そのものを止める決断をした作品もあります。ディズニー配給でブルースカイスタジオ制作の『スパイ in デンジャー』は公開を中止、Disney+配信に切り替えました。劇場ではなくネットで最新作を届けます。ディズニーは今後『2分の1の魔法』、『ムーラン』、『ブラック・ウィドウ』と大作が続き、公開できる作品の数が限られていることが理由とみられます。
邦画アニメでも、6月5日公開を予定していた『泣きたい私は猫をかぶる』は、Netflix独占配信を選びました。劇場新作長編の配信先行は制約の多い映画業界では異例の選択でしたが、世界同時配信の人気は上々のようです。

スケジュールの再調整問題は深刻です。もともと日本は人口に較べて映画館スクリーン数が少なく、新型コロナ禍がなくとも理想的な映画公開時期を確保するのは至難の技でした。多くのスクリーン数を必要とする大作であればさらにです。
今後の関心は、まだ新たなスケジュールの決まっていない作品です。東宝・東映・カラー共同配給が予定されていた『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』や『STAND BY ME ドラえもん 2』の行方は、映画業界、アニメ業界に大きなインパクトがあるはずです。

■[2020年 公開延期・中止の主なアニメ映画]

【延期 ⇒ 2020年夏/秋】
『映画ドラえもん のび太の新恐竜』 (3月6日⇒8月7日)
「東映まんがまつり」 ⇒ (4月24日⇒8月14日)
『2分の1の魔法』 (3月13日⇒8月21日)

【延期 ⇒ 2020年冬】
『劇場版ポケットモンスター ココ』 (7月10日⇒冬)

【延期 ⇒ 2021年】
『名探偵コナン 緋色の弾丸』 (4月17日⇒21年4月)
『それいけ!アンパンマン ふわふわフワリーと雲の国』(6月26日⇒21年夏)

【延期 ⇒ 公開時期未定】
『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者』
(4月24日⇒?)
『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』 (6月27日⇒?)
『ミニオンズ フィーバー』 (7月17日⇒?)
『STAND BY ME ドラえもん 2』 (8月7日⇒?)

【延期 ⇒ 配信移行】
『スパイ in デンジャー』 (5月22日⇒Diseny+配信)
『泣きたい私は猫をかぶる』 (6月5日⇒6月18日 Netflix独占配信)

■宮崎駿作品が週末興行トップ3のサプライズ

逆にこの6月、7月には、奇妙な現象が起きています。公開延期が相次いだことで、映画館に足を向けてもシネコンに新作映画が少なく、選択肢が極めて限定されています。
そうしたなかで、スタジオジブリから驚きの発表がありました。『風の谷のナウシカ』(1984年)、『もののけ姫』(1997年)、『千と千尋の神隠し』(2001年)、『ゲド戦記』(2006年)の旧作4本を6月26日からリバイバル全国公開しました。
この結果6月27日(土)-28日(日)の週末興行ランキングで上位3作品を、宮崎駿監督作品が占めることになりました。26日に公開したばかりの『ソニック・ザ・ムービー』や『ランボー ラスト・ブラッド』を興行成績で上回ります。リリーフエースとしては十分以上の活躍です。

これらの作品はこれまで何度もテレビ放送をされてきました。しかし「何度観ても」「ストーリーが判っていても」「大画面であらためて鑑賞したい」、宮崎駿監督の映画にはそんな魅力に溢れています。映画興行におけるアニメの底堅い人気と、時代に耐えうる作品であることもあらためて認識させます。
アニメはこれまでも、しばしば柔軟に先進的なビジネスモデルに挑戦してきました。映像業界のなかでの革新的な試みが多く生まれています。サプライズな大型リバイバル公開、あるいは『泣きたい私は猫をかぶる』のNetflix世界配信といった新たなチャレンジは、厳しい時期での変わらぬアニメビジネスの果敢さを示す明るい出来事にも思えます。


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