証券市場からアニメ製作費を調達するブシロードの異例
エンタテイメント分野で急成長するブシロードが、アニメ製作の資金調達で新しい動きをみせています。2020年8月17日付で額面50億円の第1回無担保新株予約権付社債を発行すると発表したのです。発行価格は額面と同じ、償還期限は3年間、利率は0%です。
調達した50億円のうち20億5000万円を「IP開発」としています。「IP開発」とはアニメ製作資金を指しています。
ブシロードは昨年7月の株式上場の時にも公募増資で調達した資金のうち18億6000万円をアニメ製作に充てるとしていました。わずか1年余りで、39億円あまりをアニメ製作資金として確保したことになります。
作品の種類によって幅はありますが、テレビアニメ1作品(3ヵ月)の製作費は3億円程度でしょうか。劇場アニメ1作品も数億円です。多くの場合製作費は、製作委員会を通して複数企業で分担します。1作品ごとの各社の負担額は、これよりだいぶ下がります。
こうした事情を知れば、1年間余りで39億円がかなり大きな金額であることが分かります。ではブシロードは、なぜそんなに製作資金を集めるのでしょうか。
今回の資金調達にあたり、製作タイトルとしてTVシリーズ『D4DJ』、『アサルトリリィBOUQUET』、『カードファイト!! ヴァンガード』、劇場映画『BanG Dream!』、『少女歌劇 レヴュースタァライト』の6つの作品が挙っています。
調達資金に対して作品数が少なく感じます。これはブシロードが、これらのアニメ作品の製作費のほとんどを自社出資することを目指しているのでないでしょうか。製作出資を増やすことで、作品権利も保有するわけです。
製作出資が増えれば、作品がヒットした時の利益も大きくなります。何よりも自社の決定、意向でビジネスを進めることが可能です。
合議制のため決定が遅れがちとされる製作委員会方式のアニメビジネスの欠点を乗り越え、業界でアドバンテージを持てます。
ブシロードの新しさは、そうした資金を無担保新株予約権付社債として証券市場から調達することにもあります。
実はアニメ製作資金の調達を目的とした株式や債券発行は、これまでほとんど行われていません。アニメの上場企業は非常に数が限られているうえ、新規株式や社債の発行は一般的ではありません。
アニメーション制作は着手から完成に2年、3年かかりますが、完成するまで収入がありません。その2、3年は、製作会社はひたすら手持ち資金を使い続けます。
一方でアニメ会社は土地や建物など担保になる資産が少ないため、銀行など資金の借り入れが難しいとされています。金融機関はリスクの高いアニメ製作のための貸し出しに慎重なのです。
このためあまり知られていないことですが、アニメ業界は大手を中心にキャッシュリッチな企業が少なくありません。数億円から数十億円、なかには数百億円の現預金を保有している企業もあります。これは資金を死蔵しているのでなく、いつでも新作製作に投じられる資金が手元になければ、事業が回らないとの理由があります。
ただし新興企業などは成長投資をしなければいけないため、貯蓄をする余裕がありません。新興企業がなかなか製作投資に乗りだせない理由でもあります。
ブシロードは株式上場を使った新株式発行や新株予約権付社債でこの問題を解決します。新株であれば利子はなく、資金返済は不要です。新株予約権付社債も今回で言えば3年間無利子、株価が上がれば社債は株式に変ります。かなり有利な条件です。
業績の振れ幅が大きいアニメやキャラクターなどエンタテイメント企業は、株式上場に向かないと言われます。しかしブシロードは、証券市場の本来の機能である資金調達をフルに活用することで、株式上場を意味のあるものにしているのです。
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