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ビッグワード

元はWebマーケティング用語で、

Web検索で多くのサイトが引っ掛かりやすい単語(word)

と言う意味です。
できるだけ自分たちのサイトを検索上位に持ってきたい、しかしあまりにニッチな単語だと検索すらしてもらえる機会がない…と言ったマーケティング戦略などでよく用いられる言葉です。

転じて、ビジネスの世界では『曖昧な言葉』『複数の意味で読み取れてしまう言葉』など、

 "コミュニケーション相手との間で解釈や認識のずれが生じる言葉"

をビッグワードと呼んでいます。どの言葉がビッグワードである、ということではありません。相手としっかり握れていれば、いくら外から見て抽象的に見えようが、ビッグワードにはならない、ということです。

英語でいうところの関係代名詞に似ていますね。
日本語では「これ、それ、あれ、どれ」に相当しますが、最初に対象について触れていないと、どのことを言っているのか文脈からは読み取れなくなってしまう代名詞のことです。

たとえば、

 「今日はアレいってみようか」

と言われても、アレが何なのかわわかりません。
けれども

 「ステーキ肉が安いらしいので、今日はアレいってみようか」

と言われると、『アレ』がステーキのことを意味していると理解できます。このように、関係代名詞を使う"元"が何なのかが明確にされていて、初めて文脈が通じるようになるのです。なければ意思疎通が図れません。

このように、曖昧にした結果、聞き手(読み手)にとって、思い当たる節が1つに絞れない状態を作ってしまうとき、コミュニケーション不良が生まれます。

たとえば、次のような会話を見てみましょう。

上司:「今期はどうする?どんな感じで進めようと思っているんだい?」
部下:「やるべきことに注力して、目標達成に向けて頑張ります」
上司:「そうか。受注ロスがいくつか続いたけど、これはどうなんだ?」
部下:「受注できなかったのは、お客様に高い付加価値の提供が
      できなかったことなどがあるように思われます」
上司:「そうか。仕方ない側面もあるけど・・・、
    まあ来年はもうちょっと頑張れよ。
    じゃあ、目標設定をシートをまとめて提出してくれ」
部下:「はい。早めに提出します」

実はこれ、普通の上司と部下のコミュニケーションに見えますが、ビッグワードのオンパレードで、認識齟齬がいたるところで起きやすい会話なのです。

 ・「やるべきことに注力」って具体的に何をやり、何をやらないこと?
 ・「目標達成に向けて頑張る」というのは、具体的に何をすること?
 ・「高い付加価値の提供」って具体的に何を提供すること?
  「高い」って具体的にどの程度?
 ・「できなかったことなどがある」の「など」って具体的に何がある?
 ・「思われます」は誰が思っているの?
 ・「もうちょっと頑張れ」というのは何をすること?
  「もうちょっと」ってどのくらい?
 ・「早めに提出」って具体的にいつ?

確実に相手にとっては理解しづらい内容となってしまいます。もしも、この会話がそのままスルーされて、上司と部下、お互いに伝えた/伝わった気でいたとしたら、ものすごく危険な結果が待っているかもしれません。なぜなら、そのままスルーされていると言うことは、双方「思い込み」によって脳内補完されていて、具体的に確認が取れていない、ということだからです。

具体的には

 ・「主語+目的語+述語(動詞)」が明確でない。
 ・形容詞が多用される
 ・抽象化しすぎている

などがこれに当てはまります。
たとえば上記の会話でいえば、

上司は「もうちょっと頑張れ」ということに対して、具体的には「受注金額の目標設定を20%くらいは向上させてほしい」と思っていた。

部下は「仕方ない」ということを好意的に捉えて、「同じレベル感でやればいい」と感じた。

となった場合、最終的な結論はすり合わないことは必至です。そうなると、結果的には上司にとっては「自分の意図を理解しない部下」という人物評価になり、部下にとっては「だったら先に言え」という不満の対象になるのです。

コミュニケーション不良は、そのままビジネスにおいて「トラブル」等の問題発生を意味します。ビジネスのみならず、複数人による活動において、「失敗」の大半はこのコミュニケーション不良が発端となります。

大事なのは言うまでもなく、

 言葉を具体的にして認識を揃え、
 聞き手(読み手)の解釈が1つに絞れるようにする

ことです。これ以外に王道はありません。解釈の選択肢が増えれば増えるほど、コミュニケーション不良を起こす確率が指数関数的に増大します。

先日、あるユーザーのところへ行き、色々とご説明してきましたが、このビッグワードについて、お客さまから細やかな指摘をいただく機会がありました。

元来、ビッグワード自体は意味に幅を持たせ、イメージを膨らませてもらう場合などに用いますが、正確性が求められる(解釈に齟齬があってはいけない)説明などでは非常に嫌われます。先日お会いしたお客さまおよびシチュエーションはたまたまそう言うケースだったのです。

このような場合、お客さまにとってビッグワードは

 「曖昧な表現でごまかしている」

と受け取られてしまいます。実際にこちらにはそのようなつもりがなくても、相手はそう判断するのです。コンサルティングの会社などでデータを多用するのはその(曖昧にせず、提案に信憑性を持たせる)ためです。

これはメールや議事録、報告書など、文書においても同じことが言えます。中には「読むのが面倒くさい」という理由だけで、シンプルな記述を推奨する人もいると思います。ですが、文章がシンプル化すればするほど、具体性を欠き、読み手にあらぬ誤解を与えることになりかねません。クドくする必要はありませんが、読み手の解釈がブレることなく1つに集約される程度の最低限度は明記しておかなくてはなりません。

たとえ

 ・報告する文書の文字数制限が厳しいため
 ・具体的過ぎても伝わらないと思ったため

等、もっともらしい理由があったとしても、結果として解釈に齟齬があると、後々何かしら問題となりかねませんし、挙句の果てに数百、数千万と言った赤字に転じる可能性もあります。

「具体的」「定量的」に努め、かつ「解釈が複数に陥らない」、そういった文章表現が求められるケースもビジネスにはあることを覚えておきましょう。

また、この表現方法を駆使できるようになれば、当然、仕様書や設計書などにおいても、認識齟齬が圧倒的に減るため、ソフトウェア開発における設計書やチェックリストなどにおいて『解釈誤り』と言った不良は根絶できるようになります。当たり前ですが、ニアショアやオフショアなどの成功率もグッと向上することになるわけです。

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