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自律的に現場を改善できるチームをつくるための「ふりかえり」

いまや半ば常識化しつつあるKPTですが、その効果や運用をきちんと理解して導入している組織というのは案外少ないものです。

現場のオペレーションを改善するために最初に着手するなら何か?と聞かれたらいつも

 これまでの「ふりかえり」から始めましょう

と答えます。

かつてトラブルの起きているプロジェクトにヘルプとして入ったときも、まず始めたのは「ふりかえり」からでした。

「ふりかえり」とは、文字通り現場の活動を振り返って改善のアクションを考えることです。ただの反省会のようにも思えますが、通常はすべてが終わってから反省するのではありませんし、誰かを吊るしあげるために開くものでもありません。

現状分析を行ってうまく続けていくための未来を向いた活動の一環です。

そのため一般的には週に1度、あるいは月に1度の単位で「ふりかえり」を行い、結果的に"失敗"となることを回避するように働きかける際に用います。

ただ、アジャイルなどを本格的に採用していない組織の場合はそこまで業務介入できるほど余剰リソースがなかったり、あまり他部署や他プロジェクトに働きかけられるほどの権限がない点も含めて、プロジェクトの終了時に「プロジェクトの反省」と「次プロジェクトへの反映」を目的としたふりかえりを実施することが多いのではないでしょうか。

個人的には、どーせ毎週のように長ったらしい進捗報告会なんてものを開き、プロジェクトマネージャーの自己満足を満たす場を設けるくらいなら、そのうちの半分を「ふりかえり」に割いた方がよほど有意義ではないかと思うのですが、なかなかそうした組織をみかけることはありません。


一般的なふりかえりに特別な道具はなにも必要ありません。
ホワイトボード1枚あれば十分です。

ホワイトボード内

ホワイトボードを見てみるとそのふりかえりの内容が書かれていますが、3つの区域に分かれているのがわかるでしょうか。この方法は「KPT(ケプト)」と呼ばれているもので、ふりかえりの中では比較的メジャーな方法です。

KPTは、Keep/Problem/Tryの略で、

 「Keep=よかったこと」
 「Problem=悪かったこと」
 「Try=次に試すこと」

の3つのフレームワークで考える方法です。

ホワイトボードを左右に分けて、その左側をさらに上下に分割します。左上をKeep、左下をProblem、右半分をTryを書き出す場所として用意します。それだけでふりかえり開始です。

ふりかえりで話すことは「仕事の進め方」についてです。

仕事の進捗を報告する場ではありません。もちろん他人を誹謗中傷する場でもありません。普段の仕事をするときより少し視点を変えて、自分たちの仕事の進め方を外から見る感じで考えます。ですので一般的には進捗会議とは別の時間をとって実施するのが良いでしょう。

まず最初にするのはKeepとProblemを洗い出していくことです。

そのもとになるのは、前回のTryとやったことです。前回実施したTryの内容一つひとつに対し、結果的にKeep(維持)とProblem(問題)を分類していきます。この際のポイントは、起きた事象そのものだけではなく、良かったことや悪かったことに至るプロセスについて書くと良いでしょう。

ただ残念なことに、短いサイクルの中で定常化されたKPTであればまだしも、プロジェクトの終端で実施するような長いサイクルのなかで1回しか実施しない場合、多くの人がKeepに対して

 「〇〇できたこと」
 「〇〇できてよかった」

と言ったただの感想文のようなものを書けばいいと思ってしまうことです。

ふりかえりとは「次にどう活かすか?」を考える場ですので、「結果良ければすべて良し」とするようなものではありませんし、結果に対して責められないかとビクビクするような場でもありません。ただの感想文で自己完結されてしまっては元も子もないのです。

これは「ふりかえり」という言葉の意味が分かっていない場合によく起こるケースです。あくまでも、取り組みに対して効果があったのか無かったのかを確認し、より効率的、より効果的な方法へと改善していこうという発想に基づいていなければなりません。

また、このときはとにかく全員で出すことを優先します。

ひとつひとつに議論をしているとキリがありません。まずは出し切ってしまいましょう。このホワイトボードに出すことで、個人で抱えていたKeepとProblemからチームのKeepとProblemへと昇華させるわけです。

 

KeepとProblemが出尽くしたら、それらを一旦チームで共有をした上でTryを考えます。

Tryを考える際のポイントは、具体的なアクションに落とし込むということです。「○○を気をつける」というようなものはTryとは言えません。

「気をつける」「努力する」「頑張る」がなぜ駄目なのか。

それは

  • 具体的に何をすることなのか

  • 次回のKPTのときに判定できるか

が明確でないといけないからです。Tryというくらいなので、絶対の正解でなくてかまいません。まずは、これまでのやり方と異なる方法を模索し、仮説となるアクションを決めましょう。評価は後程おこなえばいいのです。


ふりかえりは1週間単位くらいで実施していくと良いでしょう。

初めてのふりかえりでは、前回のTryもなくこれまでの歴史もありますから長くなると思いますが、1週間単位が定着すると短い時間でできるようになります。

ふりかえりを継続的に進めていくと、徐々にふりかえりの仕方自体もうまくなっていきます。先週よりも今週、今週よりも来週と段々と良くしていくでしょう。

ふりかえりは一人でやっても効果はありますが、チームでやるとより一層高い効果を得ます。自分自身の経験のみならず、他人の経験も自分の中に取り込むことが可能で、より洗練されたTryを検討することが可能だからです。

個々人が自分の内面に持っていた「良かったこと」「悪かったこと」をメンバーと共有して一緒に「次に試すこと」を考えるというのは、チーム作りに役に立ちます。

さらに一緒にチームを改善するためのアイデアを考えることを続けていくことで、メンバー同士が一つのチームになっていく感覚を持つことができます。

また、もしチームにカルチャーがあるとして、新しく入ったメンバーがいたとしたら、そのメンバーにカルチャーを伝える最も効果的な方法が「ふりかえり」になっていきます。


ふりかえりをずっと続けていくと、チームには「自分たちで現場を改善していくのだ」という意識が芽生えます。そうなると自らふりかえりを行い、そしてまた改善を重ねていくことが出来るようになります。

定期的な「ふりかえり」を習慣にする。
これが目指す第1段階です。

次の段階になると「ふりかえり」そのものが当たり前になって、日々の仕事の中で出来るようになってきます。普段の仕事の中で、何かした時に自然と少しずつふりかえりをしていきます。

これができるとイベントのような週に一度のふりかえりは不要になります。

わざわざ週に一度のタイミングまで待つ必要はありませんし、日々の中でできていればわざわざKPTを開催しても何も出てこなくなるでしょう。

「ふりかえり」を日常のことにしてしまう。
これが第2段階です。

このように、それまでイベントごととしてやっていた「ふりかえり」が日常の習慣になってしまうことも言ってみれば「ふりかえり」をする効果といえますし、目的ともいえます。

こうした「習慣化」や「日常化」のための手段として、「小口化」というコンセプトをもってやっていくと非常に高い効果が望めるのではないでしょうか。

先ほどもお伝えしたように、こうなってしまうと普段はイベントとしてのふりかえりは必要なくなります。小口化されていて誰もがあたりまえに日常的にふりかえりをしているからです。一人ひとりの中で常識化、定着化してしまっているからです。

 

また、ふりかえるというのは、

 自分自身のやってきたことに疑問を持ち、
 もっとより良い方法が無いのか?を模索する

ことでもあります。つまり「現状に満足せず、常に改善を加えて成長を促す」効果もあるということです。

それはプログラミングや設計、顧客とのコミュニケーションにとどまらず、仕事の最適化、管理手法、売上のあげ方、利益の出し方、後進の育成について等、気付いたものすべてが対象となっていくことでしょう。

そうすることで主体性が芽生え、組織の地力を向上させることが可能となっていきます。企業のレベルを飛躍的に向上させることにつながることでしょう。

私の中では「品質向上」といったら、こうした活動のことを指しています。

逆を言えば、自身や自身の行いを見つめなおすことなく、常に改善・改革を意識できないようになった時が

 社会人としての成長の停止または停滞
 組織としての成長の停止または停滞
 プロセスとしての改善の停止、品質の閾値/上限

を意味するものだと思っています。成長、向上が望めなくなるということは、現状以上の境遇や状況を諦めるということです。そういった人が増えれば組織も成長を止め、そのまま老朽化していこうものならやがて足元から崩れていくことになります。

ふりかえりはプロジェクトマネジメントにおいて必要不可欠というだけでなく、組織として成長し続けるためにはありとあらゆるところで必要なのです。

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