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組織の中にプロフィットセンターはない。

「プロフィットセンター」とは、企業のなかで利益を生む部門や人のことを言います。利益をいかに発生させるか、というところに責任が発生します。プロフィットセンターでは、収益と費用の両方が集計されるというのが特徴で、その目標は、利益(収益-費用)を最大化することにあります。

この言葉は、かのP.F.ドラッカーが作った造語だったかと思いますが、ドラッカーも『創造する経営者』の中でこう言っています。

「およそ企業の内部には、プロフィットセンターはない。
 内部にあるのはコストセンターである。
 技術、販売、生産、経理のいずれも、
 活動があってコストを発生させることは確実である。
 しかし成果に貢献するかはわからない」

たとえばソフトウェア開発業の会社の中だけに閉じて言えば、技術部/開発部が利益を生み出す源泉…プロフィットセンターである…かのように見えまるかも知れませんが、残念ながら自社の中ではどんなに頑張ったところで、生み出すのは人件費、諸経費だけです。

組織自体が利益を持ってくるわけではないからです。

各部署を思い返す

当然、「利益を上げる」という結果に貢献することはあるでしょう。しかし、それもトラブルや赤字プロジェクトなどの発生によって確実とは言えません。もちろん、直接/関節に関係なく利益貢献することは、その部門が生まれた意義であり、義務です。

たとえば、私が以前所属していた品質保証部が生まれたのは、自分で作ったものに対してはどうしても思い込みなどによって品質確保できない可能性があるため、第三者として評価し、出荷(納品)時に会社の看板を背負って責任ある保証を行うことで、リリース後不良やトラブルを低減させ、冗長コストを低減するとともに、顧客の厚い信頼を得ようというのが目的です。結ばれた契約の履行を確かなものとし、企業としての信用・信頼を揺るがぬものとし、売上/利益に間接的に貢献する部署…と言えるでしょう。

また情報システム部などは、"従業員全員"が自身に割り当てられた役割に集中し、最大限のパフォーマンスを出すために、その環境インフラ(設備、装置、サービス等)を整え、より組織貢献できるようにすることが目的です。その存在が企業内でどのように貢献するかによって、生産部門の効率性やパフォーマンスに大きく影響が出てきますので、売上というよりは利益に貢献しやすい部署と言えるでしょう。また、ガバナンスやコンプライアンスにもものすごく関係が深い部署でもあるため、社会的信頼を構築することにも一役買っています。

あるいは総務部であれば、唯一"従業員全員"と"経営陣"との橋渡しができる部署であり、社内全体を見渡し、疎遠になりがちな経営陣と現場・部署と部署をつなぎ、"従業員全員"を経営陣の目指す目標に向かわせることが使命となります。そのために、間接業務に対するルールや手順の整備の他、採用、購買、設備関係の管理等、「総合業務」として様々な活動にまたがって従事している企業も多いのではないでしょうか。

そもそも、総務と言う言葉は、一般的に「その他の部署では扱わないが、会社にとって必要不可欠な業務のすべて」を指していますので、ある意味で何でも屋と言うのも間違いではありません(ただし、役割定義上、扱う部署が決まっている業務は、総務では行いません)。

それぞれの部門は、利益貢献度の高い生産部門…すなわち技術部の活動において、技術部が「プロジェクト活動」を遂行するために、必要なサポートを行っているのです。

そのサポートが、どの程度従業員満足度に、ひいては利益貢献につながっているのか?が、間接部門の唯一無二の評価基準でもありましょう。

しかし生産部門、間接部門ふくめ、貢献はできても利益そのものは生み出しません。全ての活動は原則としてコストセンター…つまり、経費しか生み出さないからです。その結果に利益が伴うのは、お客さまが結果(成果)に価値を見出した時だけです。

よって、そのような時、プロフィットセンターとして必ずあるべきなのは、利益の源泉である「顧客」なのです。

あらゆる活動を事業として把握することの必要を強調するために作られた造語でしたが、言葉は独り歩きをするもので、初めてプロフィットセンターという言葉を用いた時は、プロフィットの源泉が組織の中にあるかのごとき錯覚を持たせてしまう表現となってしまいました。ドラッカー自身も、後年「こんな言葉を作ってしまって申し訳ない」と言わなければならない羽目になったほどです。

組織の中には、利益を生みだすプロフィットセンターなどありません。
お客さまから支払われた売上の中に紛れ込んでいるだけです。

それは、顧客からの注文によって生産する私たちのような企業であっても、自社パッケージ製品を作って販売している企業であっても変わりません。プロフィットは常に組織の外、常に顧客のところにあります。組織の中にあるのは、コストを発生させるコストセンターです。

あらゆる企業活動がまずコストを発生させ、プロフィットが発生するのは、顧客が代金を払ってくれたときだけの話です。お金になる仕事をしていても、お金自身を持っているのはお客さまなのです。そのため、結果的に顧客が満足しなければ、プロフィットにならないことも多々あります。

このあたりはキャッシュフローに精通すると、何となく言っていることはわかるのではないでしょうか。わからない人…特に経営者がわかっていなかったりすると、おそらくは黒字倒産を引き起こしたり、あるいはその危機に見舞われたりしていると思います。


成果を正しく評価できるのは「外部」にいる者

ですが現実の企業活動では、経営者だけでなく、管理職層や従業員一人ひとりでさえ仕事の場は組織の外ではなく中だと思っています。プロフィットセンターなる言葉に惑わされて、多くの人が、組織の中で成果に結び付くことのない仕事に忙殺されているのです。

「成果は、内部にいる者や、企業の支配下にある者によって決まるのではない。企業の活動が、成果を生むか無駄に終わるかを決定するのは、企業の外部にいる者である」

この言葉も、ドラッカーの『創造する経営者』にある一節です。

私は、QMS(ISO 9001)の責任者として長く従事していたこともあって、何となくこの言葉の重みが理解できている…と認識しています。

多くの企業において

 品質とは、顧客満足度によって測るものである

と言う大義名分を謳っています。そしてQMSでも当然同じことが謳われています。「品質」を語るうえで、『利用時の品質』を無視することは決してできないからです。

『利用時の品質』とは、すなわち機能仕様の充足度をすべて満たしたうえで

 「利用者にとって、満足できるものとなっているか?」

となっているかどうかのソフトウェア品質指標です。どんなに要求を満たしていても、どんなに高価な機材を用いていても、どんなに優れた技術を導入していても、利用者が不便と感じるソフトウェア、システム、サービスは使い物にならないということです。

つまり、プロフィット…すなわち利益を生み出す原資となる『価値』は、作り手側が決めるものではなく、使い手側が決めるということです。

図23

こういう話は、新人教育でも、中途採用者教育でも、社内教育でも散々してきたんですけど、現場に持ち帰ってどのように活かしているのか、とても気になるところです。

満足度を見ようとせずに、最新技術や自分のやりたい技術だけにしがみついて、どんなにプログラミング能力を高め、どんなに「アイツはできる奴だ」と言われたところで、顧客がそこに価値を示し、満足しない限り、プロフィットは生まれません。これは絶対です。

みなさんが消費者側の立場になった時のことを考えれば自ずとわかるはずです。どんなにいいものであっても、どんなに優れたものであっても、「欲しい」と思わなければ、すなわち価値を見出さなければ買わないはずです。


システム開発ではエンジニアによって黙殺されやすい

図22

これはソフトウェア開発を行うにあたって、言い訳すべきではない1つの真実を物語っています。つまり、

 要件定義で顧客の要求が定まらないうちに
 理解した気になって開発を進めても、上手くはいかない

ということです(実際にはアジャイルっぽく五月雨で進めるケースもあるのでしょうが、それでも決めつけや思い込みで進めていい理由にはなりません)。

実際、その結果失敗したプロジェクトは数多いことでしょう。

大抵の場合、私たちが使う「仕様」と言う言葉は、正確には業務仕様やシステム仕様、機能仕様といったもので、「つくるため」の仕様でしかありません。

確かに、モノを作るためにはそういった仕様も理解しておく必要があります。しかし、要件定義と言う業務において、本当に必要なのは『要求仕様』に対する理解です。要求仕様とは、Requirements Specification とも言って、

 Requirements :本当に必要としている事柄について(必須)
 Specification   :どのように実現してほしいかをまとめる(仕様)

が仕事です。「どう作るか」なんてことばかりに目が行くのはエンジニア脳の勝手な思い込みで、ここではお客さま/ユーザー/利用者が「今何に困っていて」「どうして解決ほしいのか」を理解し、それをシステムやソフトウェアを使う/使わないに限らず、どうやって解決・実現してあげればお客さまが最も喜ぶのか?を検討するプロセスになります。

しかし、エンジニアはみな一様に言葉を揃えてこう言います。

 「そうは言っても、顧客の都合でなかなか決まらないから仕方がない」

本当にそうでしょうか。本当にそうであれば、世の中にフロントエンジニアは1人としていないことになります。「顧客のニーズを聞く」と言う受動的な活動にばかりかまけて、「調べる」「見て回る」など、能動的に顧客のニーズを正しく理解しようと努力してきたでしょうか。

私は、エンジニア時代のおよそ15年の中で、その大半を業務系システムの開発に携わる形で過ごしてきました(半分くらいはトラブルプロジェクトの解決支援ばかりでしたが)。その中で、きちんとこなせたかどうかは分かりませんが、いわゆるフロントエンジニアとして、要件を特定し、他のエンジニアが設計できる段階にするまでの数か月間を客先常駐する…と言うのは日常茶飯事でした。

その仕事だけに専念していた頃は、要件が決まったらあとは任せて他の案件へ…と渡り歩いていたので、殆ど会社に戻ることなく、日本中を飛び回ってホテル暮らしのまま数年と言うこともありました。

そこで、常に心がけていたのは

 「顧客より、顧客の業務を理解してやろう」

と言うことでした。お客さまと言えど、社内業務を完全に掌握している人なんて、経営者も含め誰もいません。なんとなく関係している業務だけ、関係している業務に関することだけは知っていても、細かい作業までは把握できていません。だからお客さま自身が、自社内で行われる業務のなかで「誰が」「どの役割の人が」「どの程度大変なのか」をわかっていません。

お客の言うとおりに作って、お客さまが指示する通りに作業を進め、結果的に問題となったプロジェクトも数多くみてきました。

ですから、わたしであれば、お客さまと言えどもそのすべての言を信用はしません。最初から「お客さまに言われたから」と言う姿勢で仕事はしないのです(たまに頑固な人相手の場合だけ、「言質を取る」と言う形で責任の所在を明らかにし、「お客さまの合意を得たから」と言う伝家の宝刀が抜けるようにしていました)。

プロフィットを生み出す側のニーズを最大限理解できるようにするために、
まず内部に入り込んで、場合によっては一緒に作業を手伝わせてもらいながら、可能な限り理解に努めました。そのためだったら機密保持契約でもなんでも結んで、率先して突入したこともあります。

その結果得た情報と、お客さまの求めるニーズを比較して、結果的にニーズを満たすことが、本当に効果をもたらすかどうかの調査結果を提示しながら本当にお客さまの事業や活動にとって必要なものを、時に取捨選択し、時に不足分を追加し、要件をまとめてきました。

ちなみに、自分の中で『理解できた』と判断する基準は、

 『仮にその会社に転職しても、知った業務はすぐにでも実践できる』

と自信を持って言えるかどうかで決めていました。もちろん、本当にできるかどうかは分かりません。しかし、その自信ができているかどうかで決めていました。

実際、顧客(窓口担当)で仕様が定まらない-----と言うことはよくあります。お客さま側の担当者も、自社の全てを理解しているわけではないからです。むしろよくあるのですから、それに身を任せっぱなしにして、受け身になっているのはただの怠慢にしかなりません。

もちろん、会議や打ち合わせなどで有識者や現場担当などが参加することもありますが、しかしそれでも何も解決しないでしょう。

実際、言いたいことを言うだけの人が増えると、意見が散漫になってまとまらなくなります。だからこそ、窓口担当を設けて絞るわけですから、理解すべき人が理解したがらずに有識者をかき集めて打合せを開く…と言う時点で、香ばしい状況に進行していることが見てとれるわけです。属人的活動の最たる例と言えるでしょう。

そもそも要件定義の本質は、顧客から顧客都合のニーズを吸い出すことではありません。それはプロフィットセンターである顧客の言葉であっても、です。

顧客個人のニーズを、顧客企業のニーズに昇華させ、そのニーズをシステムとしてどう実現するべきかという"仕様"に反映させることが目的の本質でなければなりません。

一般的にはそう言ったことを教えてくれる人はそう多くありませんし、結果として見誤ってしまうエンジニアが多いから、プロフィットを意識できず、ニーズのすべてを取りこもうとして当初の予算を大きくオーバーしてしまったり、実現不可な仕様構成になってしまって、顧客の不満を煽ることとなるのです。

なにより、お客さまがみな『システム』や『ソフトウェア』さらには『事業』と言うものを理解しているわけではありません。

自分たちの会社がどうなれば、よりプロフィットを生み出せるのか

 システム(ソフトウェア)がサポートできる範囲
 システム(ソフトウェア)を開発するためにかかるコスト
 システム(ソフトウェア)でできること

色々な情報が不足しているのがお客さまと言うものです。

みなさんはどうですか?

みなさんが従事している組織において、

「なにが」「いつ(から・まで)」「どこで」「どうなれば」、より従業員満足度を向上でき、結果としてどの程度プロフィットに貢献できるようになるのか?

と言うことについて、すべて理解している人はいますでしょうか。
あるいは、自分の活動において理解している人はいますでしょうか。

同じことが、お客さまにも言えます。

当然、お客さまから提示されるニーズの中には、実際にはただの思い込みだけで、お客さまの事業にとって不要なものもたくさんでてきます。「あったら良いな」と思っているだけで、「必須」ではないニーズだってあるでしょう。

ゆえに、受動的な活動しかできないエンジニアは、そう言った工程においてトラブルリスクになりやすいのです。プロフィットセンターが自分たちの中にあると思い違いをしてはいけません。

 プロフィットは常に顧客の中にあって、しかも「人」ではなく、
 「企業」であり「事業」にこそプロフィットが眠っている

ことを理解しましょう。それを理解しないと、価格交渉、売上・利益貢献、信頼獲得など、顧客に依存しなければならない部分で安定することはありません。

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