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バイアスからは逃げられない

人間には「バイアス」と呼ばれる心理、あるいは思考の歪みがあります。

これは多かれ少なかれ人間であれば、必ずそれに左右されるものであり、完全には回避できません。たとえば、先入観や思い込みなどがその例です。

しかし、そのうちの典型的なものを知って、認知しておくだけでも意思決定の質は間違いなく高まります。身構えることができるからです。

また、相手がすでに陥っていると思われるバイアスを想定し、コミュニケーションを取る中で確認することで、適切なアドバイスをしたり、議論をよりよい方向に進めるなども可能となります。

これはチームの生産性を高めることにつながります。
歪みを歪みのまま進める頻度や労力を減らすことができるからです。

バイアスの数は非常に多く、ビジネスに関係するよく起こりうるものだけでも100は超えますが、一部でも知っておくと大きな助けになります。

ハロー効果
その意思決定には関係ないはずの好ましいイメージに引っ張られてしまう

サンクコスト
すでに発生して取り返しのつかない過去の投資やかかった手間にこだわり、
本来検討すべき「将来を考えたときに好ましい意思決定」ができない

現状維持バイアス
未知なものを受け入れるのを避け、現状維持の方がリスクが小さいと考えてしまう

確証バイアス
自分に都合のいい情報しか目に入らない、あるいは過大評価する

初頭効果/終末効果
最初のイメージや最後のイメージに引っ張られてしまう

認知バイアス
特定のものに対して、自分の都合のいい方向に考えが偏ったり、
他人の意見によって自分の考え方がゆがめられ、非合理的な判断をする

バイアスは自分の判断の妥当性を確認する以上に、うまく用いれば相手を自分の都合のいい方向に動かす武器ともなりえます。

たとえば、1つの例として"認知バイアス"について説明してみましょう。

世の中には、宝くじを買う人が大勢います。この人たちは「もしかしたら、宝くじに当たって大金持ちになれるかもしれない」という期待を寄せ、毎年宝くじを買い求めています。

宝くじの1等に当たる確率は、1枚の宝くじを購入した場合で約1千万分の1といわれており、隕石が地球に衝突する確率より低いと言われています。つまり、宝くじで1等に当たる確率はとてつもなく低いのです。おそらく、自分で起業して一攫千金を狙った方がよほど高確率で成功するかもしれません。

また、宝くじを買う人たち自身も「宝くじが当たる確率はとても低い」という事実を知って、理解しています。

それなのに、宝くじを買う人が多いのです。

これには、宝くじを買う人たちに働いている"認知バイアス"が関係しています。宝くじを例にあげると、認知バイアスが働いていることで宝くじを買う人は以下のような考え方に陥っています。

①「宝くじが当たる確率が低いのは知っているけど
  買わなければ確率は0%。買えば当たるかもしれない」

②「今までずっと買い続けて負けてきたので
  今度こそ当てて負けを取り戻したい」

まず①の考え方についてですが、人は物事を自分の都合のいい方向に考えてしまう傾向があります。

たとえば、車を運転している際にも「自分は絶対に事故に遭わない」と思っていたり、タバコを吸う人は「自分だけは肺がんにはならない」と心のどこかで思ってしまうのです。お酒を飲む人も「自分だけは酔いつぶれてみっともない姿を晒すことはない」と思っているかもしれません。

そのため宝くじを買う人の場合には

 「自分には当たるのではないか」
 「宝くじは買わなければ当たらないし、
  当たらなくても当選日まで夢が見られる」

などのように考えてしまい、宝くじの絶望的な当選確率を無視してしまうのです。

次に②の考え方についてですが、これは宝くじを買い続けたことでお金の損失が膨れすぎたために起こる考え方です。

宝くじを買う人のなかには、何年間も買い続けてしまう人がいます。このような人の場合「もし宝くじを買うのをやめたら、今まで損したお金を取り戻す機会を永久に失うことになる」という気持ちがあります。そのため、滅多に当たらない宝くじを買うことから抜け出せないのです。

このように、認知バイアスが働くことで、人は偏った考え方に囚われてしまいます。それゆえ、宝くじ販売というビジネスが成り立っていると考えることができます。


これを応用すると、他人との交渉に活用することも可能です。

自分が思い通りに誘導したいと考えている相手に認知バイアスを働かせることで、その人の考え方を自分の意のままに導くことができるわけです。

たとえば、あなたに強く当たってくる先輩社員Aさんがいたとします。

Aさんがあなたに対して強く当たらないように誘導する方法として、Aさん以外の周囲の社員に対して次のような言葉を吹聴してみてください。

 「Aさんを尊敬しています。
  いつも私をかわいがってくれて、とてもありがたいと思ってます」

このような言葉を使っていくうちに、この話が巡り巡ってAさんの耳に伝わるとします。そうすることで「アイツは、私のことを尊敬しているのか」とAさんに認知させることができるようになります。

この状態になれば、Aさんはあなたに対して

 「尊敬されるような行動をとらなければ」

という意識が芽生え、あなたに強く当たらなくなってくる…と言った現象です。周囲にもそう認知されていると思うと、Aさんも人前で他人につらく当たること自体ができなくなって、おとなしくなっていくかもしれませんね。会社にとっても良いことかもしれません。

ただし、バイアスの乱用はそれを知っている相手には非常に狡知に映るものです。活用するにしても、節度を持ち、最終的にWin-Winの関係構築につながるかを強く意識しないと、手痛いしっぺ返しを受けるかも知れません。


ちなみに、私も自らの行動力を高めるために情報が揃い切らないうちから『仮説』で補填しつつ、シナリオを想定して、計画を起こし、判断や行動に移るまでの時間を短くすることがよくありますが、その『仮説』は当然ながら情報自体が少ない以上、その少ない情報の中に閉じた先入観や思い込みが先行することも多いです。

ですが、あらかじめ「そういうものだ」と理解し、納得して活用していれば、案外うまくマネジメントできるものです。

先入観や思い込みがアタれば何も問題はありませんが、大抵の場合はどこかハズレているものです。であれば、

 「ハズレであること」

をどのタイミングで検知し、どのように改善するかもあらかじめ考えておくことが可能です。そもそも「ハズレ」というのは「予測と現実が乖離する」ことです。ならばどの程度の乖離…ズレであれば自分でも検知できるのか?を自覚し、計画に組み込むだけです。

PMBOKでいうところの「監視(Monitoring)」ですね。

自らが軌道修正することで計画通りの線に戻せる範囲内で検知できなければなりません。それくらい自らの力量を把握していなければならない、ということです。

たとえば2日遅れの進捗を取り戻すのに1週間以上かかる力量しかないのであれば、週1のモニタリングでは遅すぎる…ということです。2日以上の遅れに気づけるタイミングでモニタリングしないと、遅れた時に手遅れになるからです。

私は、先入観や思い込みによって、計画性が多少粗く、後々ズレる可能性が高いことを理解し、覚悟したうえで、それでも判断スピードと行動力重視で進めますが、だからこそ「監視」のサイクルは相当短いです。

進捗管理程度なら、日々…場合によっては半日単位で行いますし、そのことでメンバーにわざわざ負担をかけない方法を採ります(つまり、会議体なんて非効率な時間は設けません)。

そうやって、先入観や思い込みとうまく付き合いながら、それでも問題が起きないようにやりくりするようにしています。

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