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強固なコンセプトを創りこむ

宇宙一外食産業が好きな須田です。

前回の記事に関連して、今日はコンセプトについてお話しをしたいと思います。

コンセプトという言葉は頻繁に耳にしていらっしゃると思います。
コンセプトが良いとか悪いとか、コンセプトが理解出来ないとか、普段から頻繁に耳にして言葉にしていると思います。


このように度々使用するこのコンセプトという言葉ですが、果たしてどれくらいの方が正しく理解していらっしゃるでしょうか?

あなたは、コンセプトを正しく日本語で表現できますでしょうか?

恐らく、改めて“コンセプトとは”と、問われると多くの方が明確に表現出来ないと思います。

「コンセプト」の辞書的な定義とは、デジタル大辞泉にはこのように解説されていました。

• 概念。観念。
• 創造された作品や商品の全体につらぬかれた、骨格となる発想や観点。

少し違和感を覚えてしまうのは、私だけでしょうか。

これはこれで良いのですが、実務ベースでは使えないものとなってしまいます。

業態を開発する際には必ず店舗コンセプトを明確にすることが必要になってきますが、このことに異論を挟む方はいらっしゃらないと思います。


飲食業においてコンセプトとは、確かに全体につらぬかれた観点であることは間違いありませんが、この発想と観点に物理的な実態が伴ったものがコンセプトとなります。


要するにコンセプトとは、「全体を通した基本的な考え方」「はじめから終わりまでの一貫した考え方」を意味する言葉ですが、お店の場合は最終的に物理的な業態が伴って初めてコンセプトとして成立します。


例えば、これから居酒屋を開発するとして、
骨格は「鮮度抜群の海鮮を扱う」ことと設定するとして、
概念は「まるで北海道物産展に居るかの様に北海道を存分に味わって頂く」としたとして、
最終的に業態となる部分が、「炉端があって浜焼と刺し盛りが美味しい炉端居酒屋」ということで、業態が明確に限定されることで、最終的に店舗コンセプトとなります。

店舗コンセプトは、業態を言葉で表す作業であり、その言葉からイメージされることから業態特性に一旦膨らみを持たせつつ、一つの方向に絞り込んでいく作業を指します。

マクロな視点からミクロな視点へ移行しながら、最終的にどのような業態になるのかを伝える作業を“コンセプトを創る”と言います。

上記の事例を使って解説すると、“鮮度抜群の海鮮”では、メイン食材は魚介であることが理解出来ますが、鮮度抜群の海鮮だけではイメージする内容が広範囲になってしまい、産地も魚種も調理方もこの段階ではまだわかりませんし、鮮度抜群の担保が何なのかも理解出来ません。

次に、“まるで北海道物産展に居るかの様に”と言う表現が入ることで、北海道という核となる部分が理解でき、豊富な海産物と鮮度に対する担保も理解が出来、物産展と表現されることによりデパートなどで行っている物産展で扱っている商品とお客様の高揚した感じやノリや混み具合などが想像でき、具体的な商品消費の仕方などが伝わって来るかと思います。

この部分を読んで、シャープでモダンな洋風の店舗デザインをイメージする方はいないと思います。

木をふんだんに使った漁師小屋や番屋など北海道の原風景に出てくるような建物や大漁旗や鮮魚市場と漁師の写真や漁の道具などをイメージすると思います。

“北海道を存分に味わって頂く”という表現では、北海道を感じさせる郷土料理やそのほかの商品とお店のありようがイメージ出来て、消費形態もある程度は想像ができると思います。

最後の、“炉端があって浜焼と刺身が美味しい炉端居酒屋”で、どのような業態となるのかが、一目瞭然に明確になると思います。

お店に入ってすぐの目立つところに炉端が切ってあること、アイスベッドがあって魚と貝類が並べられていて、ネタケースには柵に切った刺身が並んでいて、鮮魚と貝類と干物などを炭火で炙って提供すること、極寒の北の海で獲れた脂がのった美味しい刺身が一押しの魚とお酒を愉しむ炉端居酒屋と理解出来ます。

上の文章を読んで、お店が具体的に見えるように感じられたと思います。


このようにまるでお店が見えるかの様に視覚化することが表現することが、コンセプトを創る時には大事なポイントになってきます。


店舗コンセプトとは、何を、どう扱い、誰に、どのようにして提供して、どのように楽しんでいただくかを表現することであり、その業態と店舗の在り方を言葉にして、関係者全員が共通認識を持つための一連の作業のことであり、その作業のことをコンセプトを創ると言います。


単に概念的な言葉を羅列してフワッとしたイメージで、コンセプトを聞いた人の感覚でどのようにでもとらえられてしまうようでは、コンセプトとしては完成度が低く、後々認識の違いから業態が崩壊する、頓挫する可能性が非常に高くなってしまいます。

「刺身と焼魚が美味しい居酒屋」という表現と、「鮮度抜群の北海道の海鮮を、まるで北海道物産展に居るかの様に北海道を存分に味わって頂く、浜焼と刺し盛りが美味しい炉端居酒屋」では、開発関係者がイメージする内容が全く違ってくると思います。

魚介類を刺身と炙りで提供することはどちらも表現していますが、片や刺身と焼魚だけではイメージ出来ることの範囲がぼやけてしまいますが、鮮度抜群・北海道・物産展・浜焼・刺し盛りと、具体的なイメージが出来る言葉が入ることで、業態イメージが絞られて来て、どのような業態にするとお客様に業態特性がダイレクトに伝えられるかの発想がどんどん出てくると思います。

このように、コンセプトを樹立することで、お客様にどのように楽しんで頂けるのか、何を提供するとお客様は喜んでいただけるのか、感動を感じていたけるポイントはどこにするべきなのか、消費形態はどのようになるべきなのかの、認識の共有が出来るようにすることがコンセプト創りの最も大事な目的です。

5W1Hの様に、Who(だれに)When(いつ)、Where(どこで)、What(なにを)、Why(なぜ)、How(どのように)を指し示し、業態を解説していきます。

Who(だれに)では、ターゲットとなるペルソナを明確化させ、

When(いつ)では、営業時間と商品消費をする時間を設定して、

Where(どこで)では、出店立地や店舗規模や階数などを限定し、

What(なにを)では、メイン食材と調理法と消費形態などを絞り込み、

Why(なぜ)では、マーケットインの視点でお客様の利用動機をくみ取り、

How(どのように)では、具体的な業態特性を示し解説して共通認識として共有していきます。

この共通認識として共有することが最も大事であり、他の要素が入り込まないように具体的に業態を認識することが、店舗コンセプトの運用では最も大事なポイントとなります。

店舗コンセプトは、運用されて始めて有用性が発揮されます。


なんとなく店舗コンセプト風なものを作ったまま放置して、その店舗コンセプト風なものを端に追いやって業態開発をする開発者や同業者をしばしば目にします。

そういった方々が最初に決まって行うことは、いきなり商品を作ってしまうことです。

先の例で言えば、いきなり刺し盛りを考え出して、やれ何品盛だの、魚種は何だの、売価はこうだのと、商品づくりに奔走して行きます。

コンセプトに軸を置くことも強く認識することもせず、メンバー間での共有など全くすることなく、誰が何を感じているかなど考えることもしないで、おかまいなしに商品をただただ作りあげていきます。

作った商品を試食して、美味しい美味しくない、見映えがどうしたこうしたという議論に終始して、業態特性も考慮しないで、消費者の要望は置き去りにされた乱暴な開発が行われてしまいまいます。


飲食業に携わっている方ならば、現代の飲食ビジネスにおいていかに強固なコンセプトを作り上げ、消費者に提供することが重要であるかを知っているはずなのに、実際の開発の現場では残念な作業を繰り返してしまいます。

原因は、コンセプトそのものを本当に理解していないからです。

しっかりとコンセプトとは何かということを認識して、共有し消費者の視点に立って具体的な開発を行っている企業と個人は、圧倒的な結果を出しているような気がします。


先日のセミナーでもアンケートにお店のコンセプトを書いて頂く欄を設けました。

私が事例として書いたことは、
「小ポーションの和牛の希少部位をコースで提供する、カウンタースタイルのガストロミックな、客には焼かせない肉バル」というコンセプトを書きました。

これを読むだけでメイン商材も提供方法も店舗スタイルも業態特性も、最終的な業態が何かも全て理解出来ます。

これをそのまま実現化しても、相当面白い業態になると感じますが、これを読んでどなたかこの業態を本当にやるならば、必ず私に連絡をしてください。

無断で黙って流用しないでくださいね。


これを読んだUSENの担当者は、「このまま1軒出来そうな事例ですね」と言っておられましたが、リアルで1軒出来そうなほど、業態が見えることがコンセプト創りには大事なポイントとなります。

実は店舗においては、コンセプトはテーブル上に表現されます。


鮮度抜群の刺し盛りと炙りの浜焼とコンセプトに明記されているならば、どのテーブルにも刺し盛りと浜焼が乗っているならば、コンセプトはお客様に伝わっていると言えます。

しかし、唐揚げと串焼きとおでんが乗っているようでは、唐揚げと串焼きとおでんが美味しい居酒屋としてお客様には認識されている証拠ですから、業態特性を修正せざるを得ません

それも繁盛していれば良いですが、そもそものコンセプトと違った消費形態になっていることを考えると、刺し盛りにも浜焼にも魅力がなくて、仕方なく唐揚げと串焼きとおでんがテーブルに乗っている状態と推察出来ます。


このような場合、出来ることは2種類しかありません。


現状にコンセプトを合わせる方向で修正して業態変換をするのか、そもそものコンセプトを再認識して業態を磨き込んで、コンセプトに合わせて業態特性を明確化させるか、この2種類しか手立てはありません。

現状を受け入れることも大事ですし、本来のコンセプトに沿った業態に仕上げることもどちらも大事な方策です。

仮に、その受け入れられている業態は、そこの出店立地にマッチした業態と言えることも出来ます。
本来のコンセプトの業態は、出店立地を変えるとマッチする可能性もあります。

この場合は、業態を取るのか出店立地を取るのかの選択になるとも言えます。

いずれにせよ、強固なコンセプトを創りこむことは、現在の飲食ビジネスには非常に重要なポイントであることは間違いがありません。


次回は、コンセプトにはいくつかの種類があることと、コンセプトの運用法、そしてオープン後のコンセプトの扱い方についてお伝えしたいと思います。

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