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キッカケをつかみに / 「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」

「映画のブログなんてどれもつまらないから、あなた書いてよ」
僕にこう勧めた人は、まさかひと月に48も記事を書くとは予想していなかったかもしれない。5月17日に初めての記事を書いてから、毎日の良い息抜きとなっている。この人は僕のことをいちばんよく知っているので、文章力や考えていることをどこかに発信すればいいのにという気持ちで勧めてくれたのだろうと思う。こうしたキッカケは人生を弾ませてくれる。このnoteは決して読者が多いわけではないが、読んだ人が何かを考えるキッカケになれば幸いだ。
数学の才能に恵まれていながら人生をうまく舵取りできないウィル・ハンティングを撮った映画「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」は、こうしたキッカケを”つかむ”までの過程を描いた名作である。ハーバード大学のランボー教授にも、心理学者のショーンにも当初反発していたウィルはキッカケから逃げている生活だった。そのウィルの心を動かしたものは、ショーンのとあるエピソードだった。
1975年のワールドシリーズ第6戦、レッドソックスのファンに”歴史的な第6戦”と呼ばれる好ゲームのチケットを持っていたショーンは、一目惚れした女が”未来の奥さんになる”という確信を抱いて、デートのために観戦に行かなかった。
ショーンはこの時に I gotta go see about a girl という説明を友人にしたんだ、とウィルに語る。このセリフが本作の心臓部に当たる。
これは少し奇妙な言い回しで、see about は訳すと”対処する””配慮する”などの意味だ。つまり、もちろん解釈は様々だろうが、ショーンはこのセリフによって”友人”たちとの付き合いを体良く断ることができる。ただ面白いのが、友人たちにしてみれば、そう言われたら仕方ない、となるものの、ショーンのこの断り文句が本当だったことだ。女とのデートに行きたいのも本当なら、友人たちとの付き合いを断りたかったのも本当だったということだ。ウィルはここに気付き、すごい一言だと興奮した。これがラストシーンへの伏線である。
ウィルは大好きなスカイラーを追いかけてカリフォルニアへ旅立つ。それがウィルにとって”もうキッカケから逃げない。つかめないかもしれないが、つかみにいく”という新たな生き方だからだ。ここでウィルはショーンに、ボストンで一流企業への就職を斡旋してくれたランボー教授へ伝言を託した。
Sorry, I had to go see about a girl.
キッカケをつかみにいくということだ。ボストンの一流企業には興味がないので断りつつ、その理由が本当だという二重の意味だ。英語のダブル・ミーニングである。
ウィルがスカイラーを追いかけて走るラストシーンは、数多くの映画のなかでも大好きな終幕だ。間違いなく僕の好きな映画トップ10に入るだろう。

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