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映画館で公開されなさそうな映画が良い / 「眠りの地」

ミシシッピ州で小さな葬儀社を営む主人公(トミー・リー・ジョーンズ)が、契約のイザコザから葬儀の業界大手を訴えるーー。これだけを聞けば、観てくれる人は少ないのかもしれない。だが、こうした映画こそ学ぶべきことが多い。Amazonプライムで配信されている「眠りの地」だ。実話に基づく本作で敏腕弁護士を演じるのはジェイミー・フォックス、ハマり役である。観てほしい映画なので、以下にいわゆるネタバレは書かない。
白人による黒人差別を描いた映画はたくさんあるものの、この作品はそこに留まらず、歴史が書き換えられてしまうことに主眼を置いている。祖父がKKKのメンバーであったことを孫が隠すこと、あるいは、名もなき黒人奴隷たちが眠る場所に多く建てられている南軍の銅像。本作の脚本家はピューリッツァー賞もトニー賞も受賞した演劇界の人物だが、まさに意欲作である。どうしても法廷でのシーンが多くなり、地味な映画だが、僕はドンパチ映画より楽しめた。
以前にNetflixで配信されている「ホワイト・ノイズ」や「ペイン・ハスラーズ」を紹介したが、こうした"配信映画"は低予算でじっくりと観られる映画が多い。全国の映画館で公開して客を大量を入れるという巨大事業(©︎押井守)ではないため、ちょっと取っ付き難いテーマの作品はみんな配信サービスになる。これは映画にとって良いことだと思う。映画館はポップコーンを片手に"みんな"が楽しめるような、それこそMARVELや大ヒットシリーズ作品、あるいはノーラン監督作のような観客の動員が見込めるものだけにして、"映画好き"は配信サービスに回ってくれという棲み分けが出来つつある。むしろ、映画館はこれから減る一方だろう。かつて音楽が配信され始めた頃と同じく、サービスが変われば客の行動も変わる。
僕は映画を途中で停止してご飯を食べたり、風呂に入ったりするので、配信映画のおかげで便利になった。裸で観ていられるし、何よりもタバコが吸える。
しかし、トミー・リー・ジョーンズは名優である。演じるたびに、その役の人にしか見えなくなるという才能はフィリップ・シーモア・ホフマンとトミーくらいではないだろうか。ジェイミーも相変わらず雰囲気のある男で、この2人が共演するのだから、それだけで充分とも言える。

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