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ハリウッドの異端児が撮った、制作の内幕 / 「ザ・プレイヤー」

マーティン・スコセッシがヒット作を上手に仕上げる監督だとすれば、映画の中でいろんなことを実験していた監督といえばロバート・アルトマンだろう。撮影が終わった後に音を付け足したり、複数のストーリーを同時に展開させる(これをハイパーシネマという)など、ジャンルも技法も常に新しいことに挑戦していた。現在活躍しているポール・トーマス・アンダーソンやウェス・アンダーソン、イニャリトゥなど、錚々たる監督たちがアルトマンから影響を受けたことを公言している。ただ、こうした本人の姿勢は当然のことながらプロダクションや配給会社との対立が絶えず、ハリウッドから干されていた時期もあり、いつしか maverick (一匹狼や異端児の意)と呼ばれていた。
そんな干されていたアルトマンが見事にカムバックを果たした映画が1992年の「ザ・プレイヤー」である。しかし、アルトマンはここでも前代未聞のことをやってのけた。65名ものセレブリティがそのまま実名で本人として登場する、ハリウッドの映画制作をテーマにした、まるで内幕を暴露するような映画だ。タランティーノ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」は落ち目の俳優が主役だったが、「ザ・プレイヤー」でティム・ロビンス演じる主人公はスタジオの役員である。もう全部バラしちゃうもんね、というノリだ。
オープニングの長回しはなんと8分もある。しかも、カチンコがちゃんと映像に映し出されており、10テイク目が本篇に採用されたことまで分かる。なぜ、カチンコを初めに映したのか、その謎は映画のラストで判明するようになっている。
主人公のグリフィン・ミル(ティム・ロビンス)がハリウッドで慌ただしく仕事をする様子がしばらく続き、やがてグリフィンのもとに脅迫めいた手紙が届くようになる。おまえを殺してやる、のようなことが毎回書かれている。グリフィンは焦り、犯人の目星をつけて売れない脚本家に会いにいくのだが、成り行きで脚本家を殺してしまう。ここからグリフィンの緊張の日々が始まるーー。
この映画が見事だったのは、脅迫状を送りつけてきた犯人が最後まで姿を現さず、映画のラストで電話をグリフィンにかけたことだ。次の映画にこんな脚本はどうだ、という調子で犯人が語る内容は、まさにこの映画「ザ・プレイヤー」の筋書きなのだ。つまり、グリフィンを脅迫していた"犯人"とは観客のことになる。そして映画の最後にその脚本の題名が「ザ・プレイヤー」だと明かされる。映画の冒頭にカチンコが映っていたわけだから、この映画そのものが劇中劇になっている。
あちこちにハリウッドの関係者たちが映り込んでいるので、それを見つけるのも楽しいだろう。なにせ65名も参加しているのだ。アルトマンの映画なら、と引き受けた俳優たちも多いだろう。
決して売れるような映画ではないものの、監督が楽しんで撮っていることが伝わってくる作品である。少し長いが、興味のある方にはおすすめしたい一本だ。

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