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【短編ホラー小説】短夜怪談「エスカレーター」
朝の駅のエスカレーター。
いつも通り乗っていると、自分の横を背広姿の男が猛スピードで駆け上がって行く。呆気に取られていると、同じ背広が同じスピードで駆け下りて来る。距離の長いエスカレーターだったのだが、三回ほどその男の往復を見た。何をしているんだ……と横目で見ていたが、他の人々はその男をすり抜けて昇って行く。
(あっ、)
そういえば、こんなに走っているのに足音も振動も無かった。見るのを直ぐ止める。エスカレーターから降りる時、駆け下りて行く男の背中がまだ見えていた。
それからしばらく、その駅のエスカレーターには乗れなくなった。
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