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【短編ホラー小説】短夜怪談「鯉のぼり」

近所に、水が綺麗な小川がある。
散歩でそこに掛かる橋を通った時、川の中に鮮やかな青い鯉のぼりが泳いでいるのが見えた。誰が水に晒しているのか、綺麗なもんだと足を止める。そこへ、小さな男の子が、鯉のぼりだ!と叫びながらじゃぶじゃぶと川へ入って行った。鯉のぼりに触れたかという瞬間、それが急に飛沫を上げて伸び上がり、男の子を一口で丸呑みにする。そのまま川へ潜り、悠々と泳ぎ去って行った。あっという間のことだった。水面には、男の子の靴が浮かんでいる。慌てて川へ下りたが、着いた時にはその靴も消えていた。水は透明なのだから、沈んでいても見えるはずなのに。砂利を踏みしめる音を聞きながら、ふと気付く。そういえば、あの子の足音は聞こえていただろうか。鯉のぼりが泳ぎ去った川下を見やる。澄んだ水に、今はもう何も見えなかった。

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