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【創作小説】佐和商店怪異集め「クリスマス準備」

榊さんが変な燃え方をしているから、最近クリスマスが常に頭の隅にある。
イブもクリスマスも一緒にいるなら。やっぱり何かプレゼントを用意した方が良いよね……。何が良いのか悩む。マフラーや手袋が浮かぶけど、何を着ても様になる人だ。下手なものは贈れない。食べ物が無難か。ビターチョコと良いコーヒー、とか。考えていたら、割り箸の補充をしてたことを忘れてた。
「すみちゃん、山にしたら引き出し閉まんねぇよ」
榊さんの声で、箸の山が崩れて落ちて行く。やってしまった。
「考え事か?」
「……そんな感じです」
何となく恥ずかしくなって言葉を濁す。落ちた箸たちを拾って、棚に戻した。
「俺さ、コーヒーでチョコケーキ食いてぇ」
「えっ」
あまりにタイムリーな発言に、変な声が出た。榊さん、読心術持ってたっけ?
「という訳で、次のお菓子、チョコケーキ作ってくれ」
「……えっ」
榊さんを見つめる。何が“という訳”なのか。私は、考えも何もかもがぐちゃぐちゃになったから、最終手段に出た。やけくそ、というやつ。
「クリスマスプレゼント、何が欲しいか教えてくれたら作ります」
榊さんの目が丸くなる。かなり驚いた顔。そんなに?
「あー……分かった。考えとく」
「早めにお願いします。ケーキの準備もあるので」
榊さんが噴き出した。
「すみちゃんは何が欲しいわけ?」
「私?」
考えてなかった。というか、
「榊さん、プレゼント贈る考えあるんですか?」
「傷ついたーおじさん今のでライフゼロー」
見せつけるように凹む榊さんはとても元気だ。
「私は別にいいですよ」
「クリスマスに寂しいこと言うなよー。ただでさえ店に缶詰めなのに」
いや、私が缶詰めになるのは、ほぼ榊さんのせいだけど。……仕方ない。
「考えておきます」
「早めにな〜」
悩みが減ったと思ったら、結局振り出しに戻ってしまった。プレゼント、って何が良いんだろう?
榊さんはこの後ずっとご機嫌で、倉庫にも行ってくれた。何と言うか、ちょっと羨ましくなったのは黙っておこう……。

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