見出し画像

【短編ホラー小説】短夜怪談「弾ける」

私の腕にあるパワーストーンのブレスレットを見て思い出したという、知人Fさんから聞いた話。

「私のブレスレットだけが、弾け飛ぶ場所があるんです」
Fさんの最寄りの駅から自宅へは近道があり、仕事で遅くなった時などは、よくその道を使っていたそうだ。そこを歩いていると、廃墟化している元タバコ屋に差し掛かる。するとその場所で必ず、腕にあるパワーストーンのブレスレットが勢い良く弾け飛ぶ。
「そりゃあもう破裂したのかしら、って勢いで。その時の物は、買ってそんなに経ってなかったから、経年劣化は考えにくかったですし。水晶のブレスレットだったんですけど、バラバラになった水晶を全部拾って、急いで帰ったんです。呆然としちゃいました、あれは」
その後も、様々な種類のパワーストーンのブレスレットを着けて通ったが、どれも無惨な末路を辿ったらしい。
「私以外の人は大丈夫みたいなんです。一度友人にお願いして、同じお店で買った同じ石のブレスレットをお揃いで着けて、一緒にタバコ屋の前を通ったんです。そうしたら私のだけ、やっぱりダメで。その時はバラバラになった上、あまりにも吹っ飛んで、ほとんど見つからなかったんです。友人には怖がられてしまって、大変でした」
十回を超した辺りでようやく決心が付き、その道を通ることをやめたそうだ。Fさんの身には、特に何も起きなかったという。
「何の曰くも無いんですよ、その場所。何でこうなるのか、さっぱり分かりません。でも案外、その人個人にとって行ってはいけない場所って、皆あるんじゃないですかね。知らないだけで」
そう言った時だけ暗くなった瞳が、印象に残っている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?