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【創作小説】僕と「インターホン」

夕暮れ時の弓守家。
ピンポン、とインターホンが鳴った。
満寛は苛立ちながらモニターを確認する。最近、この時間帯になると必ずインターホンが鳴る。モニターで確認しても誰も居ない。
(今時ピンポンダッシュかよ……)
害は無いがストレスは溜まる。
ある日、友人の宗也が泊まりに来た。この日もインターホンが鳴る。宗也も来ているし面倒で、満寛はそれを無視した。
「出なくて良いの?」
宗也に聞かれ、満寛は怠そうに玄関を見る。
「最近ピンポンダッシュされてる。モニターにも誰も映ってないし、気にするな」
宗也も玄関を見たが、ふうんと答えてまた宿題に目を戻した。
その夜。電気を消して駄弁りつつそろそろ寝ようかという時、不意にインターホンが鳴った。スマホへ目をやる。二時を回っていた。
“こんな時間に?”互いの顔にはそう書いてある。
今夜は満寛の両親は不在だ。二人でそっと部屋を出てモニターを確認する。
「うわ、」
短く叫んで二人は飛び退いた。画面いっぱいに、ボサボサの白髪頭の老婆が映っている。目を離せないでいる内に、気が付いたら消えていた。念の為ドアスコープから見ても同じ。すっかり目が覚めた二人は、モニターの映像をもう一度見てみることにした。
「何だこれ」
毎日ピンポンダッシュされていた夕方の映像全てに、さっきと同じ老婆が映っている。
「毎日見てて、誰も居なかったのに」
「ねぇ、これ段々近付いてない?」
宗也の声が僅かに震えている。確かに、日を追うごとに少しずつ老婆は近付いていた。最後に、今さっきの映像。終わった後、しばらく二人は無言になる。
「一つ言えるのは」
宗也が口を開く。満寛はただ続きを待った。
「この時間に見たのは間違いだったと思う」
「……そうだな」
結局二人は部屋の電気を付け、明るい動画を流しながら夜を明かしたのだ。幸いにも、この日から夕方にピンポンダッシュされることも、夜中にインターホンが鳴ることも無くなった。
ただ二人は、インターホンが鳴ってもしばらくの間モニターが見られなくなったのである。

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