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【短編ホラー小説】短夜怪談「御札の名前」

引っ越しを考え、何件か内見へ向かった。
その内の一件が、入った瞬間から異様に寒い。
「まさか、冷房入れてるんですか?」
「いえ、電気が通ってませんし流石に……。今も、陽が当たり過ぎて暑いくらいの部屋ですよ、ここ」
「へえ、」
もうここは無いな。そう思いながら、何気なく物入れの戸を開け、閉めようとして戸の内側に何か貼ってあるのが見えた。古く変色した御札。おいおい……。見たら、自分の名前がフルネームで記されていた。漢字も一緒。怖い、というより何で?という感情が先行する。よく見ようとしたら、不動産屋に勢い良く戸を閉められた。
「お風呂場がまだでしたよね」
「……もうこちらは結構です」
「かしこまりました」
御札に「呪」の字が見えたのもダメ押しになり、その物件は辞退した。
不動産屋が始終何事も無いようにニコニコしていたのも怖かったので、物件の異様さに怖がれば良いのか人間に怖がれば良いのか、しばらく判断に迷う羽目になった。

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