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【創作小説】剣と盾の怪奇録「破魔弓」

最近、夢見が悪い。
よく覚えてないけど、鳥のようなものが纏わりついてきて、攻撃される。何となく、嫌な感じのする夢なのだ。そんな日は、目覚めると机に置いてあるお気に入りの硝子細工の亀が、枕元にある。最初は驚いたけど、同時に見守ってくれている気がして、ホッとした。
ある日。
縁側でうとうとしていたら、またあの悪夢を見た。真っ黒で大きな鳥が、低く嗄れた声で鳴きながら、攻撃してくる。うんざりして、無理やり目覚めた。目を開けたら、ギラリと光る赤い目と会う。あの鳥だ。仰向けに寝ている僕の上に、覆い被さっている。夢じゃないのか。
「ーー旭、動くな」
響いた叔父さんの声。張り詰めた空気に、僕は黙って言う通りにする。びょう、と音がして、何かが鳥に刺さった。耳をつんざくような悲鳴と共に、鳥は散るように消える。まだ動けないでいると、庭から足音が近付いて来た。
「もう動いて良いぞ」
起き上がると、叔父さんが人一人殺った後みたいな目で笑っている。金と銀の矢絣文様のシャツ姿で、目がちかちかした。
「今の、何ですか?」
「さあねぇ。厄とかじゃねぇの」
縁側に座った叔父さんの傍らには、小さな弓と矢の飾りが置いてある。古いけど立派なもの。僕も持っている。
「破魔弓?」
「おう。これは俺のだ。ーー節句が近いからな。いろいろあるだろ」
怠そうに言って、叔父さんは火を点けずに煙草を咥える。
「柏餅食いたいから買って来て。旭の奢りな」
笑う叔父さんに急き立てられ、僕は立ち上がる。好きだと聞いていた水饅頭も追加したら、予想外に喜ばれた。
その晩から、あの鳥の夢を見ることは無くなった。

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