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【短編ホラー小説】短夜怪談「雨の日の帰り道」

雨の降る深夜。
帰宅中、道を急ぎ足で歩いていると、後ろからびちゃびちゃと足音がする。わざと水溜まりに足を入れて音を立てているような、不快な足音。深夜だし気持ち悪いので、先に行ってもらおうと思った。少しずつ私は歩調を緩め、背後の足音は変わらぬペースで私を追い越した。どんな人か見てやろうと、顔を上げる。白いレインコートに、透明なビニール傘を差した人。男か女か分からない。その人がバシャバシャと急に小走りになったと思うと、ほんの数メートル先でフッと消えた。開いたままのビニール傘が、地面を転がる。びしょ濡れになる傘を、どれくらい見ていたか。
「うわっ」
無意識に出た自分の声で怖さがこみ上げ、全速力で駅に引き返した。翌日以降は見なかったが、雨の日はまた見てしまうのではないかと思うと、今から梅雨時期が憂鬱だ。

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