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【ピティナ特級公式レポート・その12『特級ファイナルをサントリーホールで聴きました』】

特級公式レポーターの寿すばるです。ファイナルの夜の興奮がいまだに収まらず、まだ会場にいるような気分で過ごしています。24時間以上経過してるのに!

さて私は今回、
・ファイナル前日のリハーサル
・当日のゲネプロ(本番に一番近い条件で行うリハーサル)
・そして本番

というフルコースを経ており、もうね、全身がコンチェルトですよ。しかもこれを書いている今も配信のアーカイブを聴いていますから、特級ファイナル実質何日めだろう(笑)

というわけで、せっかく大変貴重な機会を頂きまくっているので、私の目と耳を通して、本番「だけじゃない」情報も混ぜながらのレポートをお届けしようと思います。

本番の会場は東京・赤坂のサントリーホール。私は記憶にある限りでは人生で初のサントリーホールで、このことにまず本当に興奮していました。そして実際に生でホールの音響を味わった感想を先にお伝えすると、
【【【最高!!!!!】】】
この一言に尽きます(笑)
語彙力どっかいっちゃいますね、こういうときは。

はじめてのサントリーホールに大興奮

指揮は飯森範親先生
そしてオーケストラは東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団の皆さま。
コンサートマスターは戸澤哲夫先生です。

前情報が長くなりましたがそろそろレポートに参りましょう。
その前に結果が発表されていますので、まずこちらから。

ファイナリストの順位と並んでサポーター賞に今井梨緒さん!おめでとうございます!!
今井さんのドラマティックな演奏、本当に素晴らしいですよね。
(今井さんについてのレポ→二次三次セミ

さてここからは演奏順ではなく、順位を逆順でレポートします。

鶴原 壮一郎さん

舞台袖の鶴原さん

ラヴェル:ピアノ協奏曲 ト長調
三次で激アツだった冒頭のグリッサンド、今回も素晴らしかった!もうこの時点で感無量でした。実は……あのグリッサンド含め、前日のリハでは鶴原さんのピアノはオーケストラに潜ってしまっていて、私は心の中で、頑張れ、頑張れ……!と他人事じゃない心境で応援していたんです。だからあの初手が決まっただけでもうね……涙が。
鶴原さんご自身もリハ後に、こんなことをお話していたようです。

——オーケストラと共演するのは初めてとお伺いしています。昨日は指揮者合わせでしたが、実際にオーケストラと合わせてみて、いかがでしたか?
鶴原さん:オケに圧倒されて自分のやりたいこととか出来てないというか、それこそ二台ピアノとは全然違って、もっと大袈裟に表現しなければいけないなと思いました。

ピティナ特級公式レポート13〜ファイナリスト前日インタビュー
https://note.com/haru_ka_amazake/n/n955d700557d2

飯森先生は前日リハで、オーケストラとの共演が初めてという鶴原さんを全力でサポートすべく、時には鶴原さんの響きについて少し厳しいお言葉もかけて激励していました。

もちろん飯森先生のお言葉は、君ならやれる!という愛のある言葉かけだったと思います。プラス、良い音楽を観客に届けるための、妥協のないプロフェッショナルの矜持ではないかとも思いました。飯森先生、ゲネプロの際にも客席に降りて鶴原さんのピアノの音を確認していました。(余談:このとき飯森先生がすぐ後ろの中通路までいらしたのでめちゃくちゃ緊張しました!)

私たち観客の耳に音楽が届くまでには、こういったプロセスがあるのだなということにも、非常に感激を覚えました。

そして迎えた本番。飯森先生の激励に鶴原さんは見事に応えました。音が潜らずに響くだけでなく、景色がめまぐるしく変わるグルーヴィーでスリリングなオーケストラをスイスイ乗りこなし、一瞬も迷うことなく鮮やかに自分の世界を出すことができていたように聴こえました。前日に「圧倒されて出来なかった」ことを翌日にはもうクリアしている!
ご自身の力を出し切れたかどうかは鶴原さん本人ではないのでわかりませんが、この時間の限られた中で発揮できる本番強さ(自分の世界を出すことができていたように観客が受け取る演奏をできること)が、とても大切な強みであるということは、観客のひとりとして声を大にしてお伝えしたいです。

鶴原さん、4位入選、本当におめでとうございます!!

森永 冬香さん

舞台へ向かう森永さん

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 Op.23
前日のリハーサルで、唯一、飯森先生からオーケストラへのオーダーがほぼなかった森永さんのチャイコン。
チャイコフスキー1番といえば、私くらいのクラシック平民でも知っている有名な曲で、オーケストラのレパートリーの中でもきっとおなじみのはず。その中でも森永さんの曲作りは、華やかで、広がりが豊かで、ある意味で万国共通の美しさがあったのではないかと感じ、オーダーが少なかったのは、オーケストラのみなさんが意図を受け取りやすかったということなのかなと思いました。

特にコンマスの戸澤先生は、森永さんの解釈を受け取ったよ、あいわかった、というように、ヴァイオリンの入りの前で眉を上げて何度も大きく頷く場面が見られました。弾いているときの戸澤先生は体を大きく柔らかく揺らして、森永さんの音楽に対して非常に深く共感しているように感じました。また、東京シティフィルのみなさんにも、本番のような気品ある緊張感が漂っていて、これ、リハだよね?という気持ちで聴いていたのを覚えています。

森永さんの表現したいものが、音に乗ってオーケストラに全て伝わっている。そういうリハーサルでした。飯森先生も同じく、森永さんの世界観を受け取って、見守りながら創り上げているように感じました。

リハ、ゲネ、本番と、一貫して最高に美しいチャイコンでした。流れるような繋がりある音楽の中で、オケとピアノの音色が寄り添い、混ざり合う、心地よい時間がそこにありました。これはつまり、森永さんがこれから世界のどこに行っても、ピアノで思いを伝えることができて、共演者と心を通わせることができ、そして会場が変わっても、ピアノが変わっても、観客がその場にいてもいなくても、最高のクオリティの演奏をすることができるということじゃないかと思います。

森永さん、銅賞受賞、本当におめでとうございます!!

神宮司 悠翔さん

真剣な表情の神宮司さんの後ろには飯森先生のお姿も

チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第1番 変ロ短調 Op.23
森永さんの同曲の素晴らしさを、チャイコンに私が持っているイメージを見事に表した『これぞチャイコン!これが聴きたかった!』という感じとすると、神宮司さんの素晴らしさはそれとは真逆の『なにこれ!こんなチャイコン初めて!』という斬新さにあるのではないかと感じました。

三次予選の神宮司さんのこの曲から受けた印象は、一言でいうなら『天地創造』でした。(そのときのレポートはコチラ
ファイナルの演奏からも、大編成の交響曲的な壮大さを感じました。
天地創造かどうかはさておき、森永さんと神宮司さんのチャイコンがだいぶ違って聴こえるという方は多いのではないでしょうか。

前日のリハーサルでは、指揮の飯森先生がオケの各パートに綿密なオーダーを伝えていました。神宮司さんの新鮮な解釈を通訳するかのようで、はじめは神宮司さんの意図を掴みかねて戸惑いがあった(ように見えた)オーケストラがどんどん壮大な音楽になってゆく様子に感動しました。

神宮司さんの演奏は、キレの良さや雄々しく荒ぶるような場面と、流麗で甘く美しい場面とが代るがわるに現れて、同じくオーケストラもそのように奏でるので、心の振り幅を端から端まで揺り動かされる思いがしました。時々、本当に甘いピアノの音色が空気に混ざって舞い降りてきて、ああ、生演奏ってコレだよなぁ、と、ホールにいる幸せを噛み締めました。

それから、前日リハで飯森先生から、激しい高速フレーズに対し「無理しないでいいよ」というような声を掛けられていた神宮司さんでしたが、当日もそこを果敢に攻めていたと思います。不可能を可能にしようとするそのパッションが大事なのかもしれない、と、パッションで今まさに世界中を飛び回っている角野隼斗さん(2018年の特級グランプリ)を見ている私としては、そこに感動しないわけにはいきませんでした。

神宮司さん、銀賞受賞、本当におめでとうございます!!

北村 明日人さん

北村さんの横顔

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 Op.58
前日のリハで飯森先生が丁寧にオーケストラの表情付けをしていらしたのが印象的でした。

北村さんのベートーヴェンは同じフレーズが繰り返される箇所にメリハリを持たせ、推進力を生むようなオーダーが多かったように感じました。特にオケの入りで期待感を高めたり、終わりで余韻をしっかり残すような雰囲気作りを丁寧に行っていました。

【ピティナ特級公式レポート・番外編『オーケストラリハーサル』】
https://note.com/subano/n/n224a9abf2a2c

受賞後に選曲について尋ねられた北村さんが、師事している先生から「あまりにも地味すぎる。けどあなたらしい」と言われたということを話していました。確かに、豪華絢爛なチャイコンと、現代人的感覚にも近い賑やかで楽しいラヴェルと並べたとき、古典で編成も小さくなるベートーヴェンは地味かもしれません。けれど、ベートーヴェン在りし日のウイーン社交界が目の前に蘇ったような東京シティフィルの演奏と、今この場で生まれているような北村さんの音によって、地味さなど微塵も感じさせない演奏だったと思います。

その音色についてもう少し。今回の4名の中で、リハやゲネと本番の演奏が全く違って聴こえたのが北村さんでした。
観客のいないホールは人間(体や衣服などが吸音材の役割になる)がいないためか、空間にいつまでも音が残って、洞窟やお風呂みたいなモワッとした響きがあったんです。ここに関してはみなさん同じなのですが、そのモワっとが一番多いと感じたのが北村さんの音だったんです。

私は前日リハからの現地参加だったので、ファイナルまで、みなさんの本番の生音を知りませんでした。なので実際に本番の音を聴いた時は、4名それぞれに素晴らしく大変感動しました。中でも北村さんの音色は特に伸びやかで、ゲネで一番モワっとしていたのが嘘のようにクリアで、まろやかさもあって、ピアノの音がオケの音と一緒に周囲から返ってくる感覚もあり、後ろの席まで美しく響いているだろうなということが感じられました。

それから、これは配信でもずっと思っていたことなのですが、北村さんは身体の全てを使って音楽を奏でているのが印象的でした。楽しげに拍をとって揺れる左手を見ているだけで、こちらも楽しくなるような。それがみずみずしく活気あふれる音色になっているのかなと、生で聴いたことによってより強く感じます。あれはまさしく、スタアの音色でした。

北村さん、グランプリ受賞、本当におめでとうございます!!



約2週間、長いような短いような特級公式レポーター期間中、今まででは考えられないような貴重な経験をさせて頂きながら、若いピアニストを間近で応援してきました。本当に本当に、順位に関係なく、出場したすべてのピアニストの皆さんを尊敬する気持ちでいっぱいです。しかし、だからこそ、受賞した人を思いっきり称えたい!とも思うのです。

本当に本当に、おめでとうございます!!!
そして、指揮の飯森範親先生、コンマス戸澤先生はじめ東京シティフィルの皆さま、素晴らしいステージをありがとうございました!

聴衆賞・サポーター賞含む受賞の詳細はこちら!

ファイナルのアーカイブも何度でもご覧いただけますよ。

では、残りわずかですが、次のレポートでお会いしましょう!
読んでくださり、ありがとうございました!
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写真提供:ピティナ/カメラマン:石田宗一郎・永田大祐



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