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ご近所のクレイジークレーマーと闘った話③

〜前回のあらすじ〜
ご本人登場だドン!玄関ドアで太鼓の達人やってるドン!
でもうちじゃなくて、隣の部屋で奏でていたドン!

どうやら20Bのドアを一所懸命叩いていたらしい。叩きすぎてうちにも音と振動が伝わったのだ。

女性はそのまま帰ろうとしたので「犬の件ですよね」と引き止めた。
少々驚いたように「えっ」と声を上げるので
「私は20Aの者です、隣は20Bです。管理会社から話は聞いています」と説明。

「えっじゃあ、部屋番号を間違えました、すみません。隣、犬飼われてますよね」

言葉は丁寧でしっかりとした話し方である。
しかしなかなか予想以上にけったいで尊大な奴だ。
「犬飼ってますよね?」ではなく「犬飼ってますよね」なのである。

どっちが20Aか20Bかしっかり確認しないまま、管理会社に電話するどころか、直接怒鳴り込んでくるとは。
出てきた私が指の無いような人だったらどうしてたんだろう。

いやいや、こんだけ思い込みが激しく、神経質な上に詰めが甘い人だから、妄想はできても想像はできないだろう。

ここでいきなり「飼ってないですよ」と否定すると、相手はまた感情的になって話すらできなくなるので、とりあえず事情を尋ねる。

「この部屋から犬がうるさいんですか?」
「この部屋からじゃなくて、うちの敷地内に来ておしっこさせたり、吠えさせたりして、私も周りの人も迷惑してるんです、いやがらせです」
「敷地内ですか」
「そうなんです、防犯カメラにも映ってます。車も近くに停めてるんです。
いま散歩に来て吠えてたから、ここに尋ねてきたんです!」

(映像にも残ってて、敷地内に侵入してきて、糞尿で困ってるんだったら法で裁けるんだから警察に行けばいいのに)

しかしこの方はアドバイスを求めに来たわけではないので、余計なことはお口チャック。

「それで困って管理会社に電話したんですね。部屋からは特に鳴き声しませんが、なぜ20Bの方だとわかったんですか?」

「その犬の飼い主は、以前うちの2階を貸してた人なんです。その時と同じ泥除けマットが玄関前にあったので、うちからここに引っ越して来たんですよ!ここ夫婦で住んでるでしょ!マットを見てわかりました」

ほう、、。

同じ泥除けのマットね、、。
ちなみにそのマットというのは、どこにでも売ってそうな一般的な泥除けマットである。
Amazonで調べたら1番上に出てきそうなデザインだ。

しかもマットがあることでここの住人を特定したというのなら、うろうろとこの敷地内に入って来、見て回ったということになる。近隣の土地にも入って確認しているのだろうか。

「なるほど、わかりました。
ただこのマットは、20Bの方が入居される前から置いてあります」

「え?」

「20Bは以前、ここの大家さんの奥さまが教室をするのに使われていて、この泥除けはその時からあります」

「え」

「そして隣の方は夫婦じゃないと思いますよ。2階は単身者しか住めませんから」

「もしかしたら別々に住んでるのかも」

こじつけが過ぎるが、まあ単身赴任とかで無きにしも非ず。
ただマットの話で相手が少し怯んだので、ここで一気に畳み掛ける。
ドロー!俺のターン!!

「お隣の方は私よりもお若い方ですし、会えば笑顔で挨拶してくれる感じのいい方ですよ、上にお住いだった方はどんな方でしたか」

「黒髪のめがねの人よ」

「お隣の方はめがねされてないです。部屋が隣ですが、犬の声も聞こえませんし、動物の毛も無いし、犬が出入りするのは見たことがありません。
お隣の方は今朝仕事に出られて、まだ帰ってこられてないんですよ(玄関の開け閉めする音や、階段を昇り降りするヒールの音でわかる)」

「そうなんですか…」

「この建物はペット禁止なので、そもそも犬がいたら入居できないと思いますよ」

「ここ、ペット禁止なんですか…」

「でも敷地内におしっこは困りますね〜」

「!!そうなんです。うちは、あそこの塀があるところに住んでる者です、Tと申します」

信頼を得た私は個人情報をゲットした。やったぜ!

で、あそこの塀…?

あんまり気にしてなかったけど、うちのアパートの隣の隣に、家があるという。

戸建てを1件隔てた向こうを指さす女性。

いや……塀高すぎじゃね?

これまで気にしたことがなかったので風景と化していたが、2階建て戸建ての2階部分までしっかり塀で閉ざされてる。

刑務所か精神病棟でもあんの?笑

相当神経質なことがうかがえる。
塀も何度か継いだのがわかる。

うちは祖父母たちが、実家の隣の家と塀の高さで揉めて同じようなことがあり、隣の家は塀を継いだ後があるが、これはいささか高すぎやしませんかね。

以後アベノハルカスならぬカベノハルカスと呼ばせてもらう。

話を聞くに、このカベノハルカスの中に、自分の住む家と、その方のお父上さまの御殿があるとのこと。

「なるほど〜、わかりました。
とにかく、20Bの方に関してはなにか違うような気がするんですよね」

「そうですか…」

「でも騒音やトイレに関しては解決するといいですね」

「はい、お部屋間違えてすみませんでした。
管理会社には私から間違ってたと連絡しておきます。
失礼しました」

「はい、お気をつけて〜」

まあーったく、とんでもねえウンコ案件だったわ。
しかしこのクレイジークレーマーの行動力、管理会社のAさんよりよっぽど仕事できる人なのでは?

部屋に戻ると、ちょうど母が私の体調のことで来ていた時期だったので、玄関のそばで目をかっぴらいて震えていた。チワワか。

「あんたよう…あんなに冷静に話ができたね…」
「働いてたら薬の空箱投げつけてくるような客もいるからね。少々神経質だけど味方につけておけばうちにはもう何も言ってこないでしょ」

しかし事なかれ主義の管理会社。
クレイジークレーマーは部屋を間違えたことを自分から連絡すると言っていたが、あれだけ神経質で思い込みが激しいと、おそらく自分の目で20Bに住んでいる人を確認するまで諦められないだろう。
お隣の女性、いなくて本当によかった。
夜に突然自宅の玄関で太鼓の達人がはじまったら、誰だっておそろしいに決まっている。

次回、そもそも管理会社の初期対応が問題なんじゃね?

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