りばーす!!

4時間目は爆睡だった。
それもそのはず、世界史の石川先生の授業だったからだ。
先生の授業は、「どうがんばっても寝てしまう」ことで有名で、毎回どのクラスでも生存者はほぼいないらしい。(私も寝ているので分からないが。)

昼休み、私は親友のゆうこに愚痴をこぼす。
「結局今日も世界史起きてられなかったよ〜いい加減やばいからさ、ちゃんと起きてようと思ったのに!!」
ゆうこは、焼きそばパンを頬張りながら笑う。
「ははは、むりだって!あいつの授業は前の晩どんなに早く寝ても耐えられない。はるかも保健室行きなよ。」
ゆうこは世界史の時間、毎回保健室に逃げる。
どうせ寝るなら、気持ちよく寝たい。それが彼女のポリシーらしい。まあ、一理ある。
「はあ。そうしよっかな。」
ため息をこぼしながら私は考える。
なんであんなに眠くなってしまうのだろうか。
それはそれは壮絶な眠気なのだ。
まるで睡眠薬をのんだときのような(のんだことないから分からないけど)、逆らいがたい眠気。

怪しくない?

一度そう思ってしまったら最後、気になって気になって仕方がなくなってしまうのが私の長所でもあり、短所でもあるわけで。
私は先生の授業の秘密を探るべく、授業をこっそり録音してみた。
家に帰って、自分の部屋で確認してみる。
録音データを流し、少し聞いてみると、すぐに眠気が襲ってきた。
どうやら教室にいなくても、眠気の威力は変わらないようだ。
私は慌てて録音データを止めて、アプリの機能を駆使し、早送りしてみたり、スローモーションにしてみたり、いろいろ試してみた。
だが、とくに新しい発見はなかった。
半ばあきらめかけた指先で、画面を適当に触っていると。
「あれ?」
なにやら、奇妙な音声が流れ始める。
アプリには逆再生機能が搭載されていたらしく、私は勝手にそこを押していたらしい。
逆再生された授業はとても不気味で、耳をふさいでしまいたくなったが、我慢して聞いてみる。
すると、あることに気づいた。
およそ10秒に1回のペースで、「ね、む、れ」という言葉が聞こえてくるのだ。
背筋がゾッとした。
逆再生は、一種の洗脳効果だと前になにかで聞いたことがあった。
たまたまにしてはよく出来すぎているのではないか。
私はすぐにゆうこに電話をした。
事情を説明するとゆうこは、火がついたように笑い出した。
「ちょっと!はるか、それ本気で言ってんの?ばっかじゃない??」
「だってこわくない?こんなことって…」
「絶対なにかの偶然だって!もう!笑わせないでよ!!」
そう言ってゆうこは電話を切ってしまった。

今日も爆睡してまった。
このままでは、先生の授業を受けている生徒全員のテストがボロボロになってしまう。
それはまずくない?私がなんとかするべきなんじゃない?
正義感が強いことが、私の長所でもあり、短所でもあるわけで。
私は、先生にズバッと聞いてみることにした。

「失礼します、石川先生いますかー?」
私は職員室のドアを開けて言う。
怖くない、わけではなかった。
だって、もしわざとやってるとしたら相当なヤバいやつだよ?
でも、私がやるしかないんだ。
みんなのテストの点を…守るために!!

「なんですか。」
職員室から出てきたのは、超絶仏頂面の石川先生。
「あの!これ、聞いてもらっていいですか?」
私はスマホを取り出し、先生の授業〜逆再生ver.〜を流した。
みるみるうちに引きつっていく先生の顔。
「やめろ!!!!」
先生は、今まで聞いたことのないような声量でそう叫ぶと、私からスマホを奪い取って再生を止める。
「やっぱり、わざとなんですね?」
さっきの大声で、心臓がバクバクしてる。
「そうだよ。」
先生は、満面の笑みを浮かべる。
「まだ、実験段階だったんだ。いろいろな方法を試して、やっと生徒を確実に眠らせることができるようになった。これからがお楽しみなんだよ。決行はまだもう少し先にしようと思ってたんだけど、君のおかげで明日がその日になりそうだ。」
にやにやと気持ちの悪い笑みを浮かべながら石川先生は言った。
「君、明日、ちゃんと授業に出るんだよ。」

教室に戻ったら人がひとりもいなかった。
世界史の時間、いつものように保健室でぐっすり眠って良い気分で帰ってきたのだが、教室はしーんと静まり返っていた。
周りを見回す。
ピンク色のケースに入ったスマホが目にとまる。
…はるかのだ。
なんとなく気になって手に取ってみると、なにやら録音中らしい。
ああ、前になんか言ってたな〜。あの子、たまにおかしなこと言い出すんだから。
そんなことを考えながら、思わず逆再生ボタンを押してみる。
流れてくるのは予想以上に気持ちの悪い音声。
すこし、背筋が寒くなる。
「え?」
思わず再生を停止させてしまったのは、恐ろしい言葉が聞こえてきたから。

「し、ね、と、び、お、り、ろ」


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