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雨が降るなら傘をさせばいい。【うつ病大学生の日記】

あの日、私は本当の雨に濡れていた。

デイケアに参加中。どうしようもなく苦しくなって、居ても立っても居られず、デイケアの施設外に飛び出した。

探しに来てくれた受け持ちさん。

なかなか戻ろうとしない私。

「怒っていないし、怒りませんから。」

そう言われて、何とかデイケアに戻ると、面談する部屋に案内された。

何も話さない私。無理に話させようともしない受け持ちさん。

「帰る時間になるまで、静養室で休んでいてください。」

そう言って、静養室へ連れて行ってくれた。

何もかもが嫌になった。

静養室から外に出て、階段に座って、ぼーっとしていると、身体を動かせなくなった。

強くなっていく雨脚。

動かせない自分の身体。

私は、雨に濡れるしかなかった。

少しして、身体が動かせるようになってデイケアの部屋に戻ると、受け持ちさんは私のことを探していた。

「すずさん!!どこにいたんですか??びしょ濡れじゃないですか!何かないかな…。これ、使ってください。」

そう言って、ハンカチを差し出してくれた。

私はそれを受け取らなかった。

夏の暑い日だったのに、雨に濡れた私は、クーラーの風にあたって、寒くて震えていた。

「すずさん、何かできることがあるなら教えてください。」

もう逃げださないように、真横に座った受け持ちさんがそう言ってくれたけど、私は何も話さなかった。

身体が動かなくなったのも、雨に濡れて寒いのも、全部自業自得だ。

心の中の黒いものを伝えるための言葉もわからない。

支離滅裂なまま伝えたところで、いったい何になるんだ。

助けを求めてはいけないと思った。

トラウマも、病気も、変えられない特性で苦しむのも、全部自分が悪かったから、弱いからだと思っていた。

「すずさんがこんなに苦しんでいるのに、私は何もできないんですか。」

そう言われてもなお、何も話さなかった。

結局その日は、雨に濡れたまま帰った。

______________

土砂降りの雨の中を生きてきた。

その雨は、目には見えない。

特性、トラウマ、良くならない体調…

それらは全部、雨となって私の心に降り続けた。

長い間雨に濡れた私は、寒くて、震えるしかなくて、息をすることさえ苦しくなっていた。

今まで、降りやまない雨を、降りやませようと必死だった。

でも、雨が止むことはなかった。

「自分のせいだ」

そう思った。

特性を変えられなくて生き辛いのは、私の努力不足。

体調が悪いのは、ただの甘え。

トラウマに苦しんでいるのも、切り替えられないのが悪い。

そもそも、トラウマになるような出来事に遭ったのは自分が悪かったんだ。

そうやって、自分を責めていた。

もっと努力しないと、甘えないようにしないと、頑張らないと、変わらないと…。

心に降り注ぐ雨を、どうにかしようとしたけど、どうすることもできなかった。

だから何度も、最悪の選択をしようとした。生きることを諦めようとした。

でも、違かったんだ。

雨をやませることが出来ないなら、雨に濡れないようにすればいい。

雨が降っているから辛いんじゃない、雨に濡れるから寒くて辛いんだ。

雨に濡れないための方法はただ1つ。傘をさせばいいのだ。

私はこれまで、諦めることが下手だった。

変えられない、どうすることもできないことに対して、敏感だった。

自分を責め続けてきた。

体調が悪いのも、トラウマも、特性も。

自分の頑張りでどうにかできるものではなかった。簡単に変えられるものではなかった。

体調が悪いのは病気だからで、病気になったのは別にあなたが悪いわけではない。そもそも、病気の自分を責めたところで、病気が治るわけではないんだから、責めるのをやめて、主治医や心理士さん、デイケアスタッフの話をちゃんと聞こう。

トラウマになってしまっている出来事があって、フラッシュバックに苦しんでいるのは事実。その出来事を無理矢理なかったことにしなくていい。トラウマのせいでできないことがあるのは自然なことなんだよ。

特性は変えられない。変えられない特性を変えようとするのではなく「自分はこういう特性を持っているんだ」と認め、「どうすればその特性を持ちつつも、日常生活での生き辛さを減らせるのか」ということを考えた方がずっといい。

そんな風に考えた方が、前を向けるし、楽になれる。

もし、自分で傘をさせないなら、誰かに傘をさしてもらえばいい。

幸いにも、今の私の周りには、私のために傘をさしてくれる人がたくさんいる。

雨は降っている。

生きていれば、生きることを諦めたくなるような絶望にも出会う。

雨が降っているのなら傘をさせばいい。

それでももし、傘をさすことが出来なくて雨に濡れてしまって寒いなら、「雨に濡れて寒いから助けて」と素直に言えばいい。

そして、誰かが雨に濡れて寒がっていたら、代わりに傘をさして、あの日 の受け持ちさんがそうしてくれたようにそっとハンカチを差し出せる人になろう。

そんなことを考えた。



心をぽかぽかさせるために使わせていただきます☺️