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コナミコマンドの生みの親と上海でお仕事ディウス

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ファミコン版グラディウスの、大幅な自機強化から始まったこの隠しコマンド。いわゆる「コナミコマンド」。

私を含めたファミコン世代はもちろんのこと、世界中のゲーマーに愛され「もっともよく知られている隠しコマンド」として「ギネス世界記録」に掲載されているほどの、地球規模の隠しコマンドである。

今回は、そのコナミコマンドの生みの親、橋本和久さんと上海でお仕事をしたお話です。


二年連続二度の失敗

2012年春、iPhoneアプリ開発案件の、企画プロデュースとデザイン制作を担当することとなった。システム開発は外部の日本人へ委託を行い、開発は順調に進んでいたかに思えた。

2012年夏、クライアントの全国代理店大会にて、アプリを一斉ダウンロードしてもらう大イベントを行う予定だったが、その前日のタイムリミットを過ぎてもApple側の審査が通らない。どういうことか確認してみると「実は、まだ、アプリが完成していません」という衝撃の告白を受ける。私の口がパクパクしている。人間の祖先は魚類だったのだ。

2013年春、iPad版アプリの開発を開始。
2013年夏、タイムリミットを過ぎてもApple側の審査が通らない。おや?デジャヴか?いや、ちょうど一年前に、この道を通ったよね。原因は「アプリの容量が肥大化して、回線が遅くて、メモリが足りなくて(以下略」とのことだった。だめだこりゃ。

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今回は明らかに委託先のチョイスミスと、私の進行管理に落ち度があった。もしも一度だけタイムマシンが使えるのなら、あの時に戻って、このシステム開発者がこの世に産まれてこないように仕向けたい。どこまで戻る気だ。


助けてコナミマン

本格的に計画が頓挫してしまい、げっそりしながら相談した先が、元コナミのサウンドディレクターでもあった「はやP」さんこと、林陽一氏であった。林さんはコナミの中国子会社への出向をきっかけに来海し、その後2007年に退職、そのまま上海に残り、当時はスマホゲーム開発企業に籍を置いていた。彼とはコナミ中国在籍時からの縁である。

うちゲームしか作れないから良い人紹介するよ。
でもほんと職人みたいな人でね、
超気難しい人だからいけるかなぁ(笑
君ならたぶん大丈夫だよ。


現れたのは細っそりした体型に、つるんとした頭とメガネの、50代中ごろの日本人男性。彼こそがファミコン版グラディウスのプログラマーでもある橋本和久氏である。

これまでの事情を説明し、引き上げたデータをチェックしてもらうと。

これはひどいね、ほとんどプログラム組んでないよ。
Storyboardでページ繋げてるだけだから、
構造もぐちゃぐちゃで容量が肥大化してる。
やってみるよ。



……5日後

できたよ。
ゼロから組み直した。
ページも機能も全部搭載した。
容量も30%に圧縮できた。

これまでの一年半がたったの5日間である。
しかも容量70%カット。
私の口がパクパクしている。


コマンドを仕込んだ理由は単純だった

橋本さん、実はそれほど気難しい方ではなく、考え方や伝え方が非常にストレートなため、人によっては接し難いイメージを抱かれてしまう。幸い私も技術系だったこともあり、通訳を手伝ったり連絡を取っていくうちに気に入っていただき、開発完了後には林さんも含めて三人で、イタリア料理店で打ち上げを行った。

グラディウスをファミコンに移植したはいいんだけど、あれ難しくてデバッグ作業したくてもすぐ死んじゃうから、それであの隠しコマンドを仕込んだんですよ(笑

ワインをクッと飲み、口に料理を頬張りながら、とてもご機嫌にいろんなことを話してくれた。橋本さんは楽しくなるほど食べ方がせっかちになる、世界一お餅を食べさせてはいけない人である。とにかくプログラミングも頭の回転も食事もハイスピードなのに、ふんわりした味のある楽しい方だった。

Xcodeをインストールしておくといいよ。
修正はこのツールでここを変更すれば
Mac上で動作確認できるから
細かな修正は自由に直してもらっていいですよ。

人生においてコナミコマンドの生みの親から、簡単ではあるがプログラミングを教えてもらう機会があるとは。こっそりコナミコマンドを仕込んでみたかったが、当然そこまでの技術は無い。

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その後、案件がクローズし次第に連絡を取ることもなくなり、そのまま世界はコロナ禍へと突入していった。

そして2020年2月25日、
Twitter上で橋本さんの情報を6年ぶりに目にした。
橋本さんの訃報であった。


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これが無きゃ難しくて無理だよ(笑

今でもきっと雲の上で、多くのゲームファンに囲まれながら、笑顔でお話していることと思います。橋本さん本当にいろいろありがとうございました。

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