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人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 六十話「沖縄で、ゆるりとお茶をしながら舜天公の話を聞く」

登場人物紹介

織田信長おだのぶなが: みなさんご存知、尾張おわり生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春おだのぶはる」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助やすけをアフリカへ送り届ける旅を始める。

弥助やすけ: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともにつ。

ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。

助左衛門すけざえもん: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久いまいそうきゅうの弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋なやまたは呂宋るそん助左衛門。

ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。

天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。

五十九話のあらすじ

琉球王国の主要港、那覇なはへと西洋帆船キャラック「濃姫号」を入れた信長公一行。彼らを待っていた沖縄の初代王、舜天しゅんてん公が「ここも困っている」と助けを求めてきたのでした。

六十話

琉球王国の初代王、舜天は日の本の平安時代末期に大暴れをした武士もののふである源為朝みなもとのためともが沖縄へ来たとき、現地妻とのあいだにもうけた息子と伝わる。15才で沖縄の地域のひとつ、琉球王国の古都として栄えた浦添うらそえ按司あじ(有力者)となり、22才で琉球王国の初代王になった。

それまでに琉球の地を治めていた、琉球の島々を作った神々から続く一族の天孫てんそん氏を裏切って毒殺した家臣を討ち、琉球王国を建てて初代王となったという。

1582年(天正10年)のそろそろ年の瀬も近くなったころ、信長一行が訪れた琉球を治める第二しょう氏は、舜天から続く一族で、尚永王しょうえいおうの代を迎えている。地域の豪族の戦いに勝ち、琉球をひとつにまとめた第一尚氏のあとに、明の国の冊封体制に入り、海洋貿易の振興によって平和と安定の時代に入っており、島の雰囲気はどこかゆったりとした風が吹いていた。

『さあさ、ここなら落ち着けるさ~、沖縄に来てくれてにふぇーでーびる』

舜天が一行を招き入れたのは、とても荘厳なたたずまいの寺だった。第二尚氏の菩提寺として建立された円覚寺えんかくじだ。1494年(弘治こうじ7年)に京都の臨済宗の僧、芥隠禅師かいんぜんじが開山をした。

敷地は広く、本尊を置く金堂、塔、講堂、鐘楼しょうろう、経蔵、僧坊、食堂の建物を揃えた七堂伽藍しちどうがらんの造りとなっている。

舜天はそのうちの食堂へと、一行を案内した。

『ねえねえ、ここのお菓子はなあに?』

食欲をそそる数々の食べ物の匂いに、ゴブ太郎が反応する。

『お菓子はちんすこう、お茶はさんぴん茶を用意するさ~。まちょ~けよ~』

舜天が無邪気なゴブ太郎を見てにっこり笑う。

『待っててほしいそうですよ』

天使ナナシが、そっと訳した。

すこし待つと、食堂の信長一行に琉球王朝に伝わる伝統菓子のちんすこうと、さんぴん茶が振る舞われ、ゆるやかなおやつのときとなった。

「かようにのんびりとしている島で、何の問題が起きているのでござろうかのう~」

戦国の覇者であった信長も、沖縄のゆるやかな風に吹かれて、かなり柔らかな口調になってさんぴん茶を頂いている。

『この琉球の地には、古くから木の精霊のキジムナー、というお化けがいるさ~。キジムナーをなんとかしてほしい。それがわん願いさあ、ゆたくし~』

舜天もさんぴん茶を飲みながら、困りごとを打ち明けた。

「木の精霊のキジムナー! あれやろ、赤い髪と赤い顔の子どもの姿をしたっちゅうお化けやな。さかいの町に来てはった、琉球からの船乗りに聞いたことがあるで」と助左衛門。

「そうなんだ、助左くん。どんなお化けなの?」

ジョアンが不思議そうな顔で聞いた。

「気のいいときには、ひとにぎょうさんご利益をくれるお化けや。キジムナーがいっしょに魚釣りの船に乗ると、船に入りきれへんっちゅう量の魚がれるいう話や。悪戯いたずら好きなところもあって、夜道でひとが使う火を消しはるとか、寝ているところを押さえつけたりっちゅう話も聞いてるで」

「そうか。オレの故郷アフリカにも、バオバブとか、大きくなった木には精霊がいた。キジムナーも、そういう木の精霊なんだな」

助左衛門の言葉に、弥助が納得をする。

「なるほどのう。まずはこの茶と菓子をゆるりと致したあとに、キジムナーとやらを探してみようぞ~」

ちんすこうとさんぴん茶がすっかりと元・覇者の戦国の毒気を抜いてしまったようで、信長はのんびりまったりとした口調で話をまとめたのだった。

(続く)

※ 琉球神話では、アマミキヨさまがニライカナイ(天界)から降り立ち、琉球の島々や七つの御嶽うたき(聖なる場所)をお作りになり、そこに一組の男女を住ませると、三人の息子、ふたりの娘が生まれたと伝わります。沖縄の島々によって神話のバリエーションがあり、アマミキヨさま、シネリキヨさまという男女の神さまとなっている場合もあります。

※ 第二尚氏の菩提寺、円覚寺は国宝ともされていたのですが、第二次世界大戦の折に、荘厳なたたずまいはすべて焼失してしまいました。

※ ちんすこうとさんぴん茶は、現代に継承されている沖縄のお菓子とお茶です。ちんすこうは、昔は王侯貴族がお祝いのときにしか食べられなかった超高級なお菓子であり、レシピも現代のものとは異なっていたようです。中国のお菓子と日本のお菓子を合わせた琉球独自のお菓子として作られた、と伝わります。現代は種類もかなり多彩になっている沖縄定番のお土産お菓子で、雪塩ちんすこう、ちんすこうショコラなどがあるようです。さんぴん茶は中国がルーツで、中国語で「シャンピエンチャ(香片茶)」が「さんぴんちゃ」になったとも言われています。

※ キジムナーは、沖縄の地に伝わる妖怪、お化けで、主にガジュマルの木の精霊である、とも伝わります。詳しくは、また次回以降に。

次回予告

悪さをしていたキジムナーを見つけた一行は……。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりえはな食堂さんの作品をお借りしました。ありがとうございます。

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