見出し画像

創作未来神話「ガーディアン・フィーリング」14話 絵美とジョニーと周りのひとびと

13話のあらすじ

VR(仮想現実)の機械、ドリームゲームが見せる夢の中の宇宙船に乗って、火星の空を飛んだ、絵美とボーイフレンドのジョニー。火星のオリュンポス山にも、地球のオリュンポス山にもいない神さまがたはどこにいらっしゃるのか? と気になったふたりは「コミュニ・クリスタル」でジュピターを呼び出して聞いてみた。意識の世界、アストラル・サイドの向こう、次元の向こうにいるのだ、とジュピターは答えた……。そして一方、絵美の姉、真菜はひとりでドリームゲームをやろうとしていた。ここからは真菜の記録。

14話

日時: 2222年2月19日 万国郵便連合加盟記念日(地球、愛知)

記録者: 真菜(マナ)  マイジェンダー: 女性 18才

出身地: 日本  趣味: ドリームゲーム???


家のことをしていると、いつの間にか日が過ぎる。さあ、グレイからもらった黒い小さな石のペンダントを使って、ドリームゲームをやってみようと思い立ったのはいいけれど、グレイ宅急便が火星にいる妹の絵美からの家族チョコを届けてくれたバレンタインデーから数日は経っていた。

どうしよう、どうせグレイもいろいろとひとへの配達があるだろうし、わたしのことなんてすっかり忘れてるかも。

そんな思いもよぎった。でも、宇宙船に乗れる、宇宙人と遊べると聞いたら、こんなにもワクワクするのは何故なんだろう。諦めてないで、ドリームゲームを一度試してみてからにしてみよう。今回はいつものグズグズしたわたしよりも、好奇心の強いわたしのほうが珍しく勝った。

今日は、万国郵便連合加盟記念日といって、1877年(明治10年)のこの日に日本が世界の国際郵便機関、万国郵便連合に加盟した日らしい。ちゃんと郵便物が届くという、文化、社会、経済がきちんと回っている、という証(あかし)になったそう。第二次大戦の時に一度脱退して、再び日本が加盟したのは1948年(昭和23年)6月1日なんだけど、記念日としては1877年の2月19日の今日、最初の日のほうが残されている。

今は火星から地球に、地球から火星にグレイ宅急便が、小さな荷物や実物の手紙を届けてくれる時代。グレイも万国郵便連合に加盟する手続きとか、取ったんだろうか? ちょっと聞いてみたい。

そんなことを、黒い小さな石のペンダントを身に着けて、布団に入ってつらつら考えていたら眠くなってきた。

すこし眠ったような気がする。目を開けると、いつものわたしの部屋が見えた。八畳(はちじょう)一間の、日本家屋。うちのご先祖さまが、20世紀から21世紀にかけて広まった流行りのフローリングはリビングルームとキッチンだけにして、日本文化を残したくて外観と個々の部屋は日本家屋、畳と障子にしたものを、わたしたち家族が大切に使い続けたところだ。

「こんにちハ! グレイ宅急便だヨ」

ふっ、とUFOに乗ったリトルグレイが現れた。

「……こんにちは、グレイさん」

畳の上に、小さなUFOが降りてくる。

「よろしくネ! 真菜さん。真菜さんハ、グレイが、宇宙のどこへでも連れていくヨ。グレイだけじゃなくテ、話ができる高次元の宇宙人もいるかラ『コミュニ・クリスタル』は忘れないでネ」

「……分かりました」

わたしは、おさげを留めているヘアアクセリーの「コミュニ・クリスタル」があることを確認した。

「大丈夫? それなラ、出発するヨ。宇宙船の中に入ってネ」

わたしは、UFOの中に入った。小型とはいえ、グレイともうひとりぶん、ちょうど座れる座席があって、とても簡単な作りのわたしでも分かりそうな、ゴーカートみたいな操縦用の機械の前にグレイがいる。

「運転すル、真菜さん?」

「……いえ」

「じゃア、最初はグレイが運転するヨ! 自分でやってみたいと思ったラいつでも運転を変わるからネ」

「……どうも」

「どこへ行きたいノ、真菜さん?」

「考えてません。お任せでいいです」

「うーん、じゃア人気の、月の周回軌道まデ行ってみるのハ?」

「……それでお願いします」 

どうしよう、絵美みたいに、気の利いたことが言えればいいんだけど。運転するのはちょっと恐いし、宇宙船に乗れると分かったって、急に行きたいところなんて思い浮かばない。グレイはこんな主体性の無いわたしなんか、失望しちゃったかな。グルグルと、悪いことばかりが頭をよぎる。

「じゃア、月の周回軌道へ行く前に、真菜さんがきっと気になるところを見せてあげるヨ」

「えっ?」

「ふふフ、それでハ出発!」

グレイは小さな足で、ゴーカートそっくりのアクセルを踏みながら、上下に動かせるレバーを押し上げた。UFOがグン、とわたしの家の屋根をすり抜けて、空へと向かった。時刻は夕方になっていて、はるか向こうの空に夕日が落ちて行くところだった。

「見えてきたヨ、あれだヨ、真菜さん」

夕日を背に、どんどんと高度を上げていくUFO。夕焼け空から、だんだんと真っ暗な真空の色をした宇宙空間へと風景が変わっていく。その真っ黒い領域に、キラキラと、太陽の光を反射する何かがたくさんあった。

「あれは、スペースデブリだヨ」

「えっ……あれが?」

スペースデブリ。20世紀から21世紀の中ごろまで、宇宙の技術がロケットも衛星も使い捨てを目的とした設計をしていたころに打ち上げられ、その残骸、デブリが宇宙に浮かぶゴミとなって問題になった。日本を始めとした、世界各国で対処を考えて、ロケットや衛星を何度も使用できるようにして、地上に帰還することを前提とした設計に代わり、23世紀の今ではロケットではなく宇宙エレベータで地球の周回軌道の高度に行くことは出来るようになったのだけど……それまでに作ってしまった地球の空のゴミは膨大で、月と火星を結ぶ宇宙船や、宇宙エレベータを傷つけないようにロボットを使ったリモート作業で今も回収作業が続いていると聞いたけど。

「これハ、ドリームゲームの中だかラ、現実世界には影響しないけド、この宇宙船にもロボットアームが付いているからゴミ拾いが出来るんダ」

「えっ、それってまるで……」

「そウ、これこそほんとのUFOキャッチャー!」

ぷっ、とわたしは噴き出してしまった。

「あははっ」

「あ、笑ったネ、真菜さん」

リトルグレイの表情はいつもあの真顔だから分かりにくいけど、一緒に笑ってくれているような気がする。久しぶりに、わたしは心から笑っていた。

「やル?」

「はい! UFOに乗って移動するだけじゃなくて、宇宙ゴミのスペースデブリ拾いもあるなんて思いませんでした」

「宇宙船のなかのリアルアームを出すネ!」

グレイがゴソゴソと操縦席で操作をすると、わたしの席の目の前に、ひじまですっぽりと入る手袋が現れた。そして、360度が見渡せるようになっている外のUFOの先端に、機械で作られた、手袋と同じ形をした金属質の大きな手が出てくる。

「その手袋、リアルアームと、外のロボットアームが連動しているからネ」

グレイはもうすこしUFOの中をゴソゴソと動かし、外のロボットアームの手前に袋を用意した。

「これデ、手袋を使ってスペースデブリをゴミ袋に入れるんだヨ」

わ……すごく面白そう。宇宙空間に来て、ゴミ拾いが出来るとは思わなかった。

「やってみます、グレイさん」

わたしは、UFOの中の手袋にすっぽりと手を入れる。グレイが運転するUFOは、スペースデブリのひとつに近づいた。手袋の中の手を伸ばすと、外のロボットアームも同じように伸びる。リモートで連動する金属質の機械の手を使って、わたしはひとつ、金属のゴミを拾い上げた。そして、ポイ、とゴミ袋に収納する。

「出来た……!」

「やったネ、真菜さん!」

「……月の周回軌道への旅行は、今度でもいいですか? このスペースデブリ拾いのほうが、性に合ってそうで」

「うン! 真菜さんの好きにしたラ、いいんだヨ」

わたしは、時間を忘れ、VR(仮想現実)だということも忘れて、スペースデブリ拾いに熱中した。

気が付くと、太陽はもう地球の向こうにすっかり隠れて、辺りが暗くなっていた。

「ああ、楽しかった」

地上でのふつうのゴミ拾いも、始めだすとけっこう熱中してしまうものだけれど、このUFOのロボットアームを使ったスペースデブリ拾いは、その何倍も面白い。

「楽しんデもらえたなら、現実世界でも、地球人さんが作ったリモートロボットで、実際のスペースデブリ拾いが出来るヨ」

「えっ。ほんとですか」

「うン。宇宙のことに関わっているひとなラ、知っているはずだヨ」

それじゃあ、もしかして、妹の絵美が、知っている……?

「現実世界でこのスペースデブリ拾いがしたかったら、つてを頼ってみてネ。今日は、このくらいデ帰還するネ」

グレイとわたしを乗せたUFOは、あっと言う間に家に帰ってきた。

「ありがと……グレイさん。すごく楽しかったです」

「いいヨ! またいつでもドリームゲームで待ってるからネ」

グレイのUFOは、ピカピカと光りながら去っていった。

……よし。わたしは、わたしにしてはとても大きな決心をした。身勝手かもしれないけれど、火星の自然創生コロニーで働く妹の絵美に言ってみよう。わたしも、仕事が……スペースデブリ拾いがやってみたい、という望みを。

(続く)

次回予告

15話は、所変わって支援団体職員マッシモの記録。隔離期間を終えて、病院を出たジョニーの両親の様子を見に行った……。

どうぞ、お楽しみに~。

※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーからted2lasvegasさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?