人生は50から! 信長公、アフリカへ行く 六十五話「石垣島のアカハチ公」
登場人物紹介
織田信長: みなさんご存知、尾張生まれの第六天の魔王。この神話×歴史ファンタジー小説のなかでは、本能寺の変で天使に救ってもらう。一般人、一介の冒険商人「小田信春」と名乗り一番のお気に入りだった黒人侍弥助をアフリカへ送り届ける旅を始める。
弥助: 本能寺の変でも、最後まで戦い、信長を守ろうとした黒人侍。気は優しくて力持ち。明智勢に捕まったが放たれ、その後は故郷アフリカへ信長とともに発つ。
ジョアン/ジョヴァンニ: 没落する故郷ヴェネツィアでの商売に見切りをつけ、アフリカは喜望峰回りの航路を確立し勃興するポルトガルの帆船に乗って、はるばる日本へやってきた十七才の少年。宣教師ルイス・フロイスの依頼によって信長をサポートすることに。愛称「蘭丸」の名で呼ばれる。
助左衛門: 堺の港で頭角を現し始めた商人。ジョアンと同い年。この物語では、大商人、今井宗久の弟子。海外への強い憧れから、信長たちと旅を始める。のちの納屋または呂宋助左衛門。
ゴブ太郎: ひとに化けて船に乗っているうちに、日本へ迷い込んできた妖精のゴブリン。信長に「ゴブ太郎」の名をもらい、ともに旅をすることに。
天使ナナシ: 本能寺で信長を救い、その後も旅を見守って同行する天使。
六十四話のあらすじ
キジムナーの事件のことの次第を聞いた舜天公は、のちの沖縄にキジムナーの木、ガジュマルの森を戻す約束をしました。そして石垣島の洞くつに宝があるという話を聞き、出港をする信長公一行を見送りに来た舜天公は、沖縄のひとびとを代表し、詫びのサーターアンダギーをキジムナーに渡したのでした。
六十五話
石垣島は、台湾と沖縄のあいだにある。沖縄からは約411キロの距離があり、台湾からは約277キロ。八重山諸島という、石垣島と西表島や竹富島、波照間島などが連なる列島のひとつだ。
標高526メートルの於茂登岳が最高峰の山で、そこから島の命の水である宮良川などが島を流れていく。於茂登岳の地元の読みはウムトゥダギ、宇本嶽の漢字が当てられている資料もある。古くから山岳信仰をされてきた山で、ウムトゥは「島の大本」を意味するという。
海岸はサンゴ礁が多いところもあり、白いサンゴと澄んだ青色の海の景色が美しい。キャラック帆船「濃姫号」を洋上に留め、留守を天使ナナシとゴブ太郎、そしてキジムナーに任せて小舟で石垣島へと着いた一行。彼らの前に、筋肉が隆起した、たくましい大男が現れた。
『やあやあ! 我こそはアカハチ! 神々の世界より、信長公、お前たちの話は聞いている。この石垣島の洞くつへ行きたければ、我と勝負をしろ! 勝てば教えてやろう』
「ほう、豪気な御仁がお出でじゃのう」
勝負と聞いて、胸がざわめく信長。
「アカハチ殿、これなるは織田信長に御座候! いざ勝負とは、いかなるものか?」
『相撲だ!』
「分かり申した! アカハチ殿。拙者がお相手致す!」
アカハチから相撲と聞き、信長はまとっていた着物を脱いだ。ふんどし一丁になって白い浜辺に仁王立ちをする。
「ノッブ! オレでなくて、いいのか」と弥助。
「一騎打ちはのう、弥助よ。求められたなら、上の者が行う決まりなのじゃ。戦国の世では、さような決まりも失せた集団戦になっておるが、昔の武門の戦いは一騎打ちであったと聞いておる。澳門のときはおぬしに勝負を任せたは、ファルソディオがそれを求めておったからじゃ。アカハチ殿はおそらくこの石垣島の名だたる御仁であろう、この一騎打ち勝負は儂が出ねば失礼になる。なに、儂も相撲ならば心得があるわい」
信長はニッと笑ってみせた。
『よし、信長公よ、勝負だ!』
「おう! 手合わせ願おう」
どちらから、ともなく、合いの呼吸で相撲が始まった。がっぷり四つに組んだふたりは、押したり引いたり、足をはらおうとしたり、どちらも互角の様相だ。
「上様、ガンバです!」
「信春はん、気張っておくんなはれ~!」
ジョアンと助左衛門も声援を送る。それが勝利を促したか、ついに信長はゴロリとアカハチを転がした。
『ははは! さすがに元、武家の棟梁だ! 強いな』
アカハチが笑って相撲の負けを認めた。
「アカハチ殿の相撲も、なかなか強うござったわい」
信長も笑って応じた。アカハチを支えて助け起こしたあとに、着物を付け直す。
『いいだろう! 石垣島の、お前たちが求める洞くつは、こっちだ』
アカハチはついてこい、と背を見せて先頭を歩き始めた。一行がうっそうと茂る亜熱帯の森のなかを案内に従って歩いてゆくと、その洞くつはあった。
「……おお、大きな入り口じゃのう」
『ここに世界の12の秘宝に関わるものがある、とは聞いている。良い発見があるといいな。我もともに行こう』
「さようでござるか! ありがたい、これは楽しみになってきたわい」
信長はワクワクとして洞くつの暗がりを見つめる。
「信春はん、すみよっさんに教えてもろた、火の術で今から明るくしまっせ~」
助左衛門が、ぽっと指先から小さな炎を出して、明かりをともした。
そうして一行は、島の英雄アカハチを加えて石垣島の鍾乳洞へと足を踏み入れることとなったのだった。
(続く)
※ オヤケアカハチ、ホンカワラアカハチなど呼び名に諸説のある彼は、八重山諸島の英雄です。かつて琉球の王のひとりが島の者たちに恭順を求め、ひとびとが信仰していた神さま、イリキヤアマリさまへのしきたりや行事、信仰することを禁じたとき、島のひとびとをまとめて立ち上がったとも伝わります。
次回予告
鍾乳洞の奥へと向かった信長公一行は……。
どうぞ、お楽しみに~。
※ 見出しの画像は、みんなのフォトギャラリーよりけいえすさんの作品をお借りしました。ありがとうございます。
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