未来についての対話から起きる変化
昨日はすごい雨が降る朝の東京を移動して、お客さんのところでシナリオプランニングのワークショップをやってきた。
大きな変化に見舞われている業界の企業として、今後の自社の方向性を検討するためにシナリオプランニングを活用している。
とても重みのある機会で緊張しつつのスタートだったけど、メンバーの方の雰囲気も良く、初日のワークショップは無事に終了。想像していた以上の良い場になった。
ワークショップの最後に、今回のプロジェクトの設計から細かい調整までを担当している方からの言葉が。
「今回のこのシナリオプランニングのワークショップは、シナリオをつくること自体ももちろん重要だけど、普段なかなかできない大きな話しを、このメンバーでするということも大事だ。」
とのこと。これは本当にそうだ。
今回のワークショップでは、この会社が含まれている業界が2030年にどうなっているのかを考えるシナリオをつくっている。
そういうテーマでシナリオをつくるとなると、話すことは目の前で起きている業界の変化だけではない。長期的に見て、何が業界に影響を与えるのか。日本の人口動態の変化が顧客や顧客に関する事業・制度にどのような影響を与えるのかということを話していく。
このような話しをしていくと、普段、目の前で起きていることだけにとどまらない、より大きな視点からの変化の可能性やその兆候を考えていくことになる。
これによって、まず自分たちを取り巻く環境に対する理解が変わっていく。
シナリオプランニングに取り組むことによって、そういう理解がきっかけとなって起きていく変化について、アダム・カヘンは『社会変革のシナリオ・プランニング』の中で次のように紹介している。
変容型シナリオ・プランニングのプロセスでは、関係者が次の四点において自らを変容させることによって問題ある状況を変容させる。
第一に、自らの理解を変容させる。(中略)
第二に、自らの関係を変容させる。(中略)
第三に、自らの意図を変容させる。(中略)
第四に、理解と関係と意図が変わると行動が変容し、その結果、状況が変容する。
『社会変革のシナリオプランニング』(45〜46ページ)
彼が書いている内容をまとめたものが次の図だ。
これは『対話型組織開発』の訳者まえがきで述べられている対話型組織開発のマインドセットの話しとも通じるところがある。
そうした状況下で本書が示唆しているのは、マネジャーがコントロールしようとするのではなく、職場のメンバーとともに自分たちの見方や前提について対話を通して探究すること。そして、その探究を通して自分たちの見方や前提に見直しが起こり、話し合いでの「語られ方」が変わることの重要性である。端的に言えば、話し合いでの語られ方やコミュニケーションのありようが変わることでイノベーションは生まれる、ということである。
何か新しい手法などに取り組むと、ついつい、それによって生み出される最終的な成果物にしか目がいかないことがある。
そういう視点しか持っていないと、シナリオプランニングに取り組んでも、どんな未来を描いたのかということにしか意識がいかない。
しかし、成果物と同じくらい、その成果物をつくり出すための過程(プロセス)も重要なのだ。
普段なら考えないような先のこと(例えば2030年)を、しかも複数考えるというシナリオプランニングでも、そういう設定だからこそ生まれるプロセスに目を向けることがとても重要だ。
そのプロセスにおいて、個人としての頭の使い方の癖、組織としての支配的な思考様式に気づくことが、個人や組織が変わっていくための大事な一歩になっていく。
そして、シナリオプランニングに限らず、自分たちが取り組んでいることに対して、最終的な成果物だけでなく、そのプロセスにも目を向けることを常に意識していると、成果物の良し悪しだけを論じるだけでは得られなかった、より豊かな人や組織の状況が見えてくるはずだ。
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Photo by Harli Marten on Unsplash
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