「イノベーション統一理論」③~応えるべきニーズの特徴=「未充足ニーズ理論」(梅澤)
社内報でNOHL理論に触れてから油谷先生と実際に面識を得るまでの間に、私は梅澤先生と非常に密接な師弟関係になっていました。一言で言うと「私設かばん持ち」で梅澤先生の講演・セミナー、研究会、コンサル先などにほぼ「追っかけ」のようについて回ったのです。今の会社組織では考えられませんが、当時私は上司から「出社に及ばず」、「出張費使い放題」という「特権」を手に入れていました。そのキッカケとなったのは、先生が年に2回、私の勤務先で行われていた「キーニーズ法研修」の事務局担当となったことでした。キーニーズ法というのはアイデア発想法のように誤解されていることもあるのですが、実は今に至るまで唯一の「新市場創造型商品のコンセプト開発技法」です。私は当時、「商品事業企画部」や「中央研究所」というところで新商品・新事業の企画・開発を担当していました。例のSさんの配下です。それでこの処遇には「梅澤理論・手法の習得」という大義名分があったわけです。知識として学ぶ程度ならば良いのですが、年に2回、それぞれ4日の研修程度ではとてもではないが、梅澤先生の理論・手法の真の理解などおぼつかないとSさんや上司は理解されていたのだと思われます。私自身にもこの方向、道に進みたいという強い意欲がありました。
先生の理論・手法は実務上発生する様々な状況に対応しているために多岐に及ぶのですが基礎部分を単に説明すると
1、商品は二度評価される(C/Pバランス理論)
商品とは「買う前に欲しいと思わせる力」=商品コンセプト(C)と「買った後に買ってよかったと思わせる力」=商品パフォーマンス(P)の要素によって構成されている。前者は期待感・トライアル購入を規定し、後者は満足感・リピート購入・継続利用などを規定する。CとPの高低によって商品には運命づけられた売上げパターンが存在する。売れる商品とはCとPが共に高い商品である。
2、C=I+B(商品コンセプトの公式)
商品コンセプトCはI(アイデア)とB(ベネフィット)によって構成されている。前者は「機能」、「状態」(外観など)、「手順」(使い方)、「構造」(商品の成り立ち)によって構成され、後者は「〇〇したい」という生活者のオケージョナルな生活ニーズ(Doニーズ)の語尾を「〇〇できる」としたものである。IとBは「○○というアイデア(I)だから✕✕できる(B)」という因果関係にある。このようなコンセプトを開発する技法が「キーニーズ」法であり、「ニーズ分析・創造」の為の技法と「アイデア発想」の技法からなる。
3、ニーズは層構造を持ち、新市場創造型商品開発の対象となるのはDoレベルのニーズである(ニーズの層構造理論)
ニーズとは「手段ー目的」関係による階層構造を持っている。具体的な商品・サービスへのニーズを「Haveニーズ」(○○が欲しい)、どのような生活をしたいのかのニーズを「Doニーズ」(○○したい)、どのような人生を送りたいのかのニーズを「Beニーズ)(〇〇でありたい、○○な人生を送りたい)と呼ぶ。新市場創造型商品開発の対象となるのはDoニーズである。
Haveニーズに対応する具体的な所有・利用の対象が未だ無いニーズに応えるからこそ、新カテゴリーを生み、新市場を拓くことができるのである。
4、売れる商品となるためには「未充足の強いニーズ」に応える必要がある(未充足ニーズ理論)
梅澤が他の追随を許さないのは「ニーズ」というものに対して上記の「層構造」があるという事の他にも様々な特性があるということを明らかにしたことにある。その中には’「潜在性」、「強さ」、「広がり」、「発生頻度」「未充足度」などがあるが、売れる商品とは「未充足の強いニーズに応えている」ものであること梅澤は研究によって見出している。尚、梅澤が生涯に発見した「ニーズの特性・法則」は優に200を超えている。
5、潜在したDoニーズに応える商品を目にしたときに初めて、そのニーズは顕在化する
現在、未充足ニーズの多くは潜在している。すなわち、その商品が登場する前に「こんな商品が欲しい」とは思われていない。また調査をしても直接訊き出すことはできない、具体的にその潜在ニーズに応える商品が目の前に現れたときに初めて「こんな商品が欲しかった」とニーズが顕在化する。
6、新市場創造型商品開発を成功させるためには「未充足の強いニーズ」の「創造」と「商品コンセプト提示による検証」が必要である。
故に新市場創造型商品の開発を成功させるためには、
①調査などで得られた情報から仮説的に「未充足の強いニーズ」を「創造」しなければならない。
②創造されたニーズに応える商品コンセプトを作り、生活者に提示することでそのニーズの存在を「検証」しなければならない。
という手順が必要となります。
では、その「未充足の強いニーズの創造」とはどうすれば良いのか、ということが課題となります。
次回はこの課題を解決する「CAS(Concept Acessment Study)理論」とそこから派生した「ニーズの系統発生理論」について説明します。実はこれらの理論が油谷NOHL理論との接点となっているのです。
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