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インタビュー調査の進行と課題⑤~テーマインタビュー

ALIにおいては趣旨説明から自己紹介、そしてウォーミングアップにはインタビューの時間のおおよそ1/3が費やされます(グループの場合)。それほどまでにこれらのパートは重要なのです。それによって、残りの時間に得られる情報の量と質が格段に変わってくるからです。対象者個別、設問個別にあれもこれも訊き出そうとするアスキングではこの時間を費やすことが無駄なように思われますが、今までも説明してきたように個別に訊き出そうとすること自体が情報の量と質を下げるため時間が足らなくなるのは当然で、そう思われるわけです。アスキングとリスニングではそもそものインタビューというものの考え方、原理が違うわけですが、その両者の違いが明確に定義・説明されたり認識されたりしてこなかったためにそういう誤解が生じるわけです。

これも何度も繰り返しておきますが、/S領域における「仮説抽出」や「発見」が期待される定性調査においてはリスニングが行われないとその目的が論理的には達成できないということが意識マトリクス理論ですでに明確に説明されています。これは調査課題に限りません。例えば商品評価のような検証的な課題であっても、実生活場面ではどのようなことがあるからそのような評価になるのか、ということを把握しないと地に足の着いたものにならないわけです。つまり、それはアスキングであってはならないということになります。

さて、来場対応から趣旨説明、自己紹介、ウォーミングアップと「場づくり」をした後に、調査目的・課題に対応する「テーマインタビュー」に入っていくわけです。「場づくり」とはここまでの間に繰り返しお見せしています下表のように「集中力の形成」、「リラクゼーションの形成」、「集団形成=集団実体性の確立・向上」、「自由な発言の理解・習得」などの課題をクリアすることです。これは従来「ラポールの形成」などと曖昧な言い方がされてきたところです。

そこまでの「場づくり」がされていてこそ、テーマインタビューを効果的に実行できるわけです。

テーマインタビューの各パートは、「話題の提示」→「発言促進による自由な発言」→「振り分けによる情報の拡充」→「必要な部分の適宜確認」という流れで進められます。

この手順の背後にある原則ですが
「話しやすいことから話しづらいことへ」
「意識のウエイトが高いことから低いことへ」
「大きな話題から小さな話題へ」
といったことであり、それらをひとまとめにして我々一門では「真綿で首を締めるように」という表現をしています。

※このような情報の「追い込み方」を体感するために、インタビュアーのトレーニングにおいて「二十の扉」ゲームを行うことを梅澤先生は書き残しておられます。このゲームはすべてYes or No?のアスキングで行われますが、コツは「大きな範囲から小さな範囲」に仮説を絞り込んでいくことです。リスニングにおいてもこの考え方は共通しています。

「グループインタビュー調査」(梅澤、1981)参照

これらは人間のコミュニケーションとして自然なことです。その自然なことに反することを求めるが故に情報が歪んだり話せなくなったりするわけです。つまりはそこが「話したいこと、話せることを聴かせてもらう」というリスニングのスタンスと「知りたいことを訊き出す」というアスキングのスタンスの違いです。

テーマインタビューにおいてインタビュアーが行う行為とその原則は上記のとおりですが、その目的はそれぞれのパートにおける調査課題を解決できるように情報を具体化、構造化することにあります。既述のように具体化、構造化のためにはまず話の垣根を維持しながら対象者のナラティブに関する自発的発言を促進すればよく、必要な場合にのみ適宜確認を行えばよいわけです。

「逆デルタ理論」でも説明しましたが、より情報量が増えればより深層に到達することができます。なので手練手管を使って必要な情報だけを一本釣りしようとしなくても、関連のありそうな情報をごっそりと底引き網のようにとってくればよいわけです。また、あえて「深掘り」をすることも不要です。つまりは話題の垣根から外れない限り、インタビュアーはとにかく発言促進と振り分けをしていればよいわけです。アスキングをせずにリスニングを行っている限り対象者の発言は自然にC/S領域に追い込まれていくわけです。

対象者の発言が得られるとC/S領域はC/C領域化します。つまり、調査主体側が今までに知らなかった対象者の生活の中での行動や意識が見えてくるわけです。これによって適宜確認の質問(自発的発言を受けての質問)が行えるようになるわけです。つまりインタビューの前半はリスニングである必要がありますが、後半は質疑が増えてくるのは必然です。このインタビューのフェーズによる変化とその原理を認識しておかないと、ALI後半の質疑が増えたパートの様子だけを切り取って誤った認識をもってしまうことになります。但し、適宜確認もできれば質問ではなく、話題の提示で行う方が望ましいのは既述の通りです。



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