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インタビュー調査におけるインタビュアーの役割~「発言促進」②=「リズム」

潜在しがちな事ですが長年インタビューを観察していて気付かされることがあります。

それは、インタビュアーの持っているリズムと対象者のリズムは同調するということです。例えば、インタビュー冒頭の趣旨説明をインタビュアーが早口で行った場合、対象者も早口になりがちです。ゆったりと説明をした場合は、対象者もゆったりと話します。

インタビューの場での主導権はインタビュアーが握っていると考えると、これは重大なことです。対象者に対して早口で接すると対象者も早口で返します。そうすると情報が増えて良いだろうと思うのは浅はかで、実は、対象者は日ごろの生活のことに思いを致す余裕もなくなり、その場での思い付きを手短に語る、ということになってしまうからです。一方、ゆったりと話しかけられると対象者もゆったりとした心持ちになってリラックスでき、日ごろの出来事に思いを致す余裕ができるわけです。当然、具体化、構造化された情報が出やすくなるのは後者です。

私は特に個別インタビューの場合には対象者に「ゆっくりと自分のペースで話していただければ結構です」と伝えることにしています。何かを思い出すための沈黙が必要なことがあるからです。グループインタビューの場合はその時間を他の出席者の発言が作っています。

このリズム作りにはさらに奥深いことがあります。

それは「呼吸法」です。インタビューの際の呼吸については、インタビュー調査の巨匠である内田耀一先生や油谷遵先生が触れておられます。芸事や武術に関する本を読みますと、呼吸法が自らのリズムを作り出し、相手にも影響を与えることがわかります。つまり、呼吸法を意識することでノンバーバルに対象者のリズムや心持ちにも影響を与えられるということなのです。これは極意レベルの話だと思いますが、

「芸」に学ぶ心理面接法―初心者のための心覚え 前田 重治
・無限の力 ビジネス呼吸法 高岡英夫

などの本が興味深く、参考になると思います。

「リズム」づくりの基本には「呼吸」があるわけです。インタビュアーというのは一面、演技者であり、そのための体術があると考えると当然のことですが、それは天才でなければ意識しないと身につかないと思われます。

その呼吸のリズムが基本にあって、インタビュアーは「うなずき」、「相づち」、「合いの手」などを駆使しながら、対象者の発言をリズムに乗せていくようにします。それはあたかも、民謡のお囃子や、オーケストラの指揮者がタクトをふるようなことに例えられるでしょう。

必要な場合には緩急も使い分けます。例えば、構造化や具体化が特に必要なナラティブについては、ゆっくりとしたリズムに切り替えます。一方、列記羅列式に体言で多数の例示をしてもらいたいような場合には調子よく、速めのリズムにするわけです。場合によっては発言を止めるということにも呼吸やリズムは関係します。例えば息を吐きながら「ハイっ!」と大きめの声を出すと、対象者はインタビュアーに注目し、発言を止められます。それは吐く息で対象者に圧をかけるようなイメージです。早口であることの問題を上に述べましたが、早口の時は吐く一方で呼吸も詰まっています。それは対象者の緊張感を呼び覚ましてしまい発言も阻害します。

逆に吸う息は対象者をリラックスさせて発言を促す効果があります。たとえばうなずきは息を吸いながら行うと効果が高まるわけです。

ALIの場合には対象者に自由なナラティブ発言をしてもらえば良いのですから、このリズム作りによる発言促進はインタビューの根底に流れる基本だと言えます。

このリズム感というのは、対象者にボケやツッコミを入れて発言を促すなどということにおいても非常に重要な要素です。それはあたかもお笑い芸人が絶妙の間でボケ・ツッコミを行わないと「スベる」ということに似ています。例えば、「オウム返し」というのは「ボケ」の一種で発言をさらに引き出す為に使えるテクニックですが、その間を外すと効果が出ません。それほどの精度は必要ありませんが、当然のことながら、うなずきや相づちなども同様です。

インタビュアーは優れたリズム感を持っている必要があります。

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