インタビュアーのトレーニング⑤~発見的態度と発想力
それだけで独立して存在し得るとは言え、インタビュアーはリサーチャーの1職能です。そしてリサーチャーとは「調査をする人」ではあるのですが、調査の結果からマーケティング課題を解決する示唆、助言ができることが求められています。この点、業界内では「リサーチャーは事実情報の提供に徹するべきであり、クライアントの業務に口をはさむべきではない」という人もおり見解が分かれるところですが、自らが企画、調査した結果をベースに、クライアントが直面しているマーケティング課題の解決策を演繹できないリサーチャーというのは非常に無責任です。クライアントの期待はそれができる調査であり、しかし、相当な手練れでなければそのような調査を設計することもできなければ、結果を解釈し、演繹することもできないからです。相手がプロだと思うからこそクライアントはリサーチャーに仕事を依頼するのです。その期待感に応えるために、リサーチャーはクライアントがおかれている状況と課題を十分に理解した上で調査を設計し、結果からソリューションが演繹できなければなりません。
調査業界には確かに「クライアントの指示通り」に調査をすればよいという風潮があります。しかしそもそもマーケティングリサーチというのは、しかもそれが「役立つ」レベルのものであるためには、弁護士や医師などと同様に高度な専門知識に裏付けされたプロの仕事でなければなりません。故に、クライアントに対して提案を返さずに指示を求めるだけの調査会社、リサーチャーというのは採用されるべきではないと私は考えます。体調が悪いからと訪れた病院で医師から「どんな検査や治療、投薬をしてほしいのか指示してほしい」と言われたらとしたらその病院、医師は信用できるはずがありません。それを考えるのは医師の仕事です。しかし、それと同様のことが調査業界の場合にはまかり通っていると言って私は憚りません。
一言でいうと「どんな調査がしたいのか?」や「何が聞きたいのか?」としか聞いてこない調査会社、リサーチャーはダメだということです。
医師というのは患者から症状についてや日常の生活、本人と家族の病歴などについてを問診します。また、各種の検査を行います。それらの結果から患者の病名を推測していくわけです。そこには必ずそれらの情報から病名とその原因を見出そうとする「発見的態度」が必要です。最初から病名を決めてかかっていては誤診や医療事故が起きることがあるわけです。これはリサーチにおいても全く同じことで、各種の情報からマーケティングが直面している問題の核心的原因を見出そうとするわけです。
また、リサーチをしなければならないという状況においては「マーケティング施策として何を行えばよいのかが決められない、わからない」ということが多々あります。しかしそれを直接、調査対象者たる一般の生活者が答えられるわけもなく、つまりここでは「アイデア発想」がリサーチャーにも求められるわけです。これは医師の場合はその患者の症状に対してどのようなアプローチをとれば効果的に治療ができるのかを考えるということに相当します。
つまり、リサーチャー、インタビュアーには「発見的態度」と「アイデア発想力」も必要な資質であるということです。
これらの能力を鍛える非常に良いトレーニングがあります。AHAゲームといい、師匠の梅澤先生が開発されたものです。
まず、この29枚のカードをご覧ください。
その裏面はこうなっています。
この29枚×裏表=58文字の中には、共通のつながりをもつ5つの単語が隠されています。その単語は表と裏のどちらかの中だけにあり、隠されている面には5つの単語以外の文字は含まれていません。その5つの単語を見つけようというのがこのゲームです。
まずは頭の中でカードを並べ替えてみて、単語が見つかるかどうかをやってみてください。
ゲームの進め方はこの通りです。グループで行うのが原則ですが、一人で行うこともできます。
このゲームは当初、アイデア発想に長けた「天才」と呼ばれるような人にその発想の仕方をヒアリングし、それが既成のあるパズルゲームに似ているということからそれをヒントに開発されました。
ゲームはまず、カードを眺めながら隠されている単語を探すということから始まります。ある単語が見つかると、その単語が属する様々なジャンル、グループなどの属性に思いを巡らせて仮説を立てながらそれを検証するということが必要です。つまりは仮説推論です。そして共通の属性を持つものが2つ見つかると、そこから帰納を行って他の単語を探すわけです。このように様々な思考法を駆使しながら単語を見つけていくためには「発見的態度」が無いと様々に試行錯誤を行うモチベーションが生じません。
この単語の発見では共通の属性とは関係のない単語も見つかります。しかしそれは間違いだとわかると違う文字の組み合わせを見出そうとするわけです。同様に共通属性の発見の過程では、最初に考えた属性が間違っているということがあります。それで、別の属性を探そうとするわけです。
この両者はいわば文字や単語の「つながり方」を変えるということに他なりません。そこには発想の自由度が求められるわけですがここで思い出されるのは以下の言葉です。ジェームズ・ヤングはアイデア発想の有名な研究者です。
つまりこのゲームは頭の中で文字や単語を様々に試行錯誤しながら正解の「組み合わせ」を見出そうとするものなので、アイデア発想力を高める効果があるわけです。
積極的に試行錯誤をしながら並べ替えるという行動は、それ自体がヒントになる言葉を探っているわけですが、グループで行っている場合にはそれが他の人のヒントにもなることになります。その体験によって、グループダイナミクスとはどういうものなのかが体感的に理解できるという効果もあります。
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