インタビュー調査におけるインタビュアーの役割~垣根の維持

「自発的な話し合い・独白」をしてもらわないとC/S領域には侵入できないわけですが、C/S領域なら何でも良いわけではなく、調査課題に応える情報を得る必要があるわけです。ここが単なるリスニングとアクティブリスニングの違いです。アクティブリスニングとはC/S領域の中で調査課題を解決するために必要な部分にフォーカスをしてそれを積極的に話してもらおうとするものです。その為には、調査対象者に話して欲しい領域、範囲を明確に伝え、理解してもらわなければならないのは当然のことです。また、インタビュー中にはその範囲を維持しなければなりません。維持できないと要は「脱線」した話が多くなり、必要な情報の量が減るわけです。

こういうことが必要になるのは、まず、「インタビュー」や「市場調査」に対する通念においては、調査主体が「質問」(アスキング)することが一般的であるからです。それではC/S領域に侵入する発言は偶然にしか出てこないわけですが、しかしそれはALIの概念・実態とはズレがあるわけです。一般的な質疑応答(アスキング)であるのならば対象者は質問に答えらばよいだけでこんなことは必要ないのですが、ALIならではこそ、これが必要であるわけです。また「自由に発言してほしい」と言ったところで、調査対象者はその調査において自分たちに求められている情報が何なのかということが説明されない限り何を話せばよいのかがわかりません。そこで、調査主体側はその調査の趣旨として「自由に発言してほしい」ということや、「こんな話題で日常の経験談を話して欲しい」といったことを明確に伝える必要があるわけです。

それによって対象者が「話の垣根」を理解することで、潜在していた調査課題に応える内容の発言が行われ、調査課題が解決できるようになるわけです。

インタビューの中でインタビュアーが対象者に「話の垣根」を伝えるにあたっては単純かつ明快でなければなりません。グダグダくどく説明をしても逆に趣旨がよくわからず一体何を話せばよいのかは伝わりません。特に、範囲を明確にしようと言葉に言葉を重ねたり、様々な条件を加えたり、例示をしたりすればするほど、対象者は何を話してよいのかの理解が難しくなります。これはインタビューフロー作成の技術とも関係してくるわけですが、話して欲しいことを如何に単純明快に伝えるのかには、ある意味コピーライターやシナリオライターのような能力も必要になります。

また、単純明快でも範囲が広すぎると何を話してよいのか判断ができませんし、狭すぎると一言で終わってしまうわけで、適度な広さの判断というのも必要です。

話の垣根を理解してもらい、維持するために、我々は「垣根ボード」と呼ばれる提示物を提示します。下記はその一例です。このようなものを提示しておくことで、垣根の維持ができる効果があります。話が脱線しているような場合にはこのボードを高く掲げたり、動かしたりして注意を引くことで話題を元に戻すといったテクニックもあります。


※コロナ禍での生活変化が調査課題であった場合

また、対象者が垣根の範囲の話をしてくれている場合においてはインタビュアーは笑顔や興味関心を示すなどの傾聴態度で、その話の内容が「ウエルカム」であることを常時伝え続ける必要があります。それによって、コトバだけでは理解しにくい垣根の範囲が対象者に経験で了解されていくわけです。逆に範囲外の場合には首をかしげながら「しまった」といった様子を示すといったこともあります。この場合「申し訳ないですが、説明がよくなかったようです」と再度垣根の説明をしたりします。

このように話が脱線したり、対象者が話しづらそうな原因が「垣根の理解度の低さ」にあると思われる場合にはインタビュアーは話の垣根を再度説明して理解してもらう必要があります。その際には、理解できたのかできないのかとか、どんな理解でいるのかといったことも確認されるべきです。調査主体と調査対象者の関係においては対象者は「何を話して欲しいのかがわからない」とはなかなか言いづらいことであるからです。また、「もし話せることが無ければ無いといってほしい」ということも伝える必要があります。でないと、自発的な発言でもS/C領域に侵入している場合がでてきます。

「垣根の維持」には逆の観点もあります。それは、垣根の中の一部分の発言しか得られていないと判断された場合には逆に話題を拡げていくことが必要だということです。これは「振り分け」の部分で改めて説明したいと思います。

こういった課題を処理するのには、インタビュアーは今行われている話を注意深く聴きながら果たしてそれが垣根の中なのか、外なのかということを常時判断している必要があります。しかしそれはなかなかに難しいことです。調査主体側が「関係がない」と思っていても、生活者にとっては「関係大あり」ということは話の途中では判断しきれないからです。基本はその話が一通り話されて明らかに「関係ない」と判断できるまで待つことになります。その時点で垣根を元に戻すわけです。

この際の問題はリサーチャーやインタビュアーには経験からそれが判断できて待てても、経験の浅いクライアントにはその判断が難しいということです。それで短気を起こして話の途中にインタビュアーに聞きたいことをアスキングすることを指示要望してしまいがちですが、それではインタビュー全体が「壊れて」しまいますのでプロを信頼し、自重されることをお願いしたいと思います。経験の浅い人には関係がないと思える話でも、実は非常に重要である話であったりすることも多々あります。率直に申し上げると実はこの経験の浅いクライアントの介入によるインタビューのクオリティダウンというのはリサーチャーにとっては深刻な問題であったりもします。


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