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怯えた目をした、とある中国人高校生の話

1年ほど前だったでしょうか。親戚経由で、日本語を勉強しているという高校生の中国人の男の子と話をした時のことです。

その時点で1年ほど日本語を勉強していたらしく、すでに日本語検定能力試験のN2(上から2番目の難易度)に合格済みだといいます。将来は日本への留学も考えており、勉強だけでなく実際に話す機会がほしいということで、僕が紹介されたようです。

親戚が持ってきた話に、正直めんどくせえな……人を日本語出力マシーン扱いすんじゃねえよ……と思いつつ、その子には罪はないと思い直したのと、いま日本語を学んでいる中国の高校生ってどんなもんなんだろうという興味から、話を聞いてみることにしました。

そんなわけで、オンラインで通話をしてみたのですが、その時のことが非常に印象に残っているので、今日はそのことを書いてみたいと思います。

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オンラインでビデオ会議をつなぐと、あどけない少年の顔が現れました。僕は真っ先に、「もしもし」と声をかけてみました。しかし返事はなく、緊張した面持ちで周囲をきょろきょろと見ています。

僕は「なるほど、「もしもし」は知らないのかもな」と思いました。これは別に不思議なことではありません。机の上でだけ勉強していて実際に外国語を運用したことがなければ、試験でいい成績をとっていても、ごく基本的なことを知らなかったりすることは珍しくないのです。

そこで、「こんにちは」と声をかけました。「もしもし」は電話をかける時に特有のあいさつみたいなものなので、これまでに勉強したことがない、もしくは知っていてもどう返していいかわからないということが考えられます。しかし、さすがに「こんにちは」なら、試験を通過した子であれば知らないということはまずありえません。

しかし「こんにちは」にも、返事はありません。やはりガチガチに緊張した様子で、カメラの外に視界をやりながら、うろたえるばかり。

ちょっと緊張しすぎだな、困ったな……と思いながら、「こんにちは」と何度か声をかけ続けてみるも、答えは返ってこず。そこで一旦、「听到了吗?聞こえますか」と中国語に切り替え、話しかけてみることにしました。

すると聞こえてきたのは、「不好意思,孩子可能太緊張了」(すいません、この子緊張しているみたいです)という、親御さん(母親)の声でした。どうやら、この会話をそばで見ているようです。声の聞こえてくる方向から、カメラの外でこの子が見ていたのは、どうやらこの親御さんなのだとわかりました。

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ああ、大丈夫ですよ……と親御さんに返事しながら、じゃあまずは大きな声で「こんにちは」と返事をしてみようか、というところから始めることにしました。

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