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「現地採用=やめとけ」論を問い直す。海外現地採用サバイブ術

華村と申します。現地採用で中国をフラフラしている成人男性です。

Googleで「現地採用」と検索すると、まずトップ画像のように予測検索から悲痛な文言が並びます。それをなんとか見て見ぬフリをしてヒットしたページを開いても、「給料が安くてきついからやめとけ」「後のキャリアにつながらない」「現地スタッフと駐在員に挟まれてストレスが溜まる」などのネガティブな情報がわんさか出てきます。かなり古いものもあり、どうやら相当の年数を繰り返され強化されてきた論のようです。

僕自身は中国に住みはじめて以降、会社を転々としながらも数年、現地採用者として働いてきました。「転々としてるってことはやっぱり辛いんじゃねーか」というツッコミにそれなりに頷きつつも、このように現地採用が避けるべき雇用形態の象徴のように語られ続けているのは少し不健全に感じますし、ちょっと悔しかったりもします。

そんなわけでこの記事では、現地採用数年で泥水をすすったり砂を噛むような思いをしたり、ごく稀に楽しかったりした経験をもとに、現地採用者としてどうサバイブしていくべきかについて思うところを述べ、現地採用は本当に「やめとけ」なのかという問い直しをしてみたいと思います。

想定するのは「日系企業の現地法人」、あと究極的には会社や人による

海外現地採用とひとくちにいっても雇用先によっていろいろ区別できますが、この記事で想定しているのは「日系企業の現地法人」です。上述したような怨嗟の声が溢れているのも、多くは現地の日系企業での経験談です。現地ローカル企業やまた別の国の外資企業であれば、事情は変わってくるかと思います。ご留意ください。

また、現地採用というのは雇用形態にすぎないので、結局はそこで出会う人や会社がどうなのかというところに帰結されます。あくまで現地採用として数社で働いた上で言えそうな傾向として述べていきます。傾向は傾向であり絶対的なものではないです。そのあたりもご留意いただければ幸いです。

会社は慎重に選ぶ

現地採用は選択肢が少ないです。当たり前ですが海外における日系企業の数は限られており、その中でも人を雇いたい、それもどうしても日本人でなければならない事情がある会社となると、かなり少なくなります。そのため、雇われる側は他の雇い先が見つからないかもしれない不安から、とりあえず内定が出たところに身を預けてしまいがちです。

一方、雇う側から見ても、わざわざ海外現地に住んでいる(住みたい)日本人などそうそうおらず、面接に来てくれる人数は限られています。その中で経験や待遇などの条件がピッタリ合う人となると、見つけるのは至難の業でしょう。結果として、こちらも細かい条件に目をつぶってとりあえず面接に来た人を雇ってしまう傾向があるように思います。

このように両者とも消去法的に採用を決めてしまうため、仕事に対する適性や人間関係的な相性が見過ごされてしまい、いわゆる採用後のミスマッチが起こりやすい構造があるように思います。ミスマッチなところに入社してしまうと後が大変で、心身に大きな負荷がかかり、多くの時間を無駄にしてしまいます。

「そうはいっても、他にみつからなかったら困るし…」という気持ちをグッと堪えて、慎重に就職先を選びましょう。

・面接ではできる限りの質問をして会社の実情を理解する。入社後の具体的な仕事について突っ込んで聞く。ここで「その時の状況に合わせて、なんでもやってもらうよ」的な空気があるところは危険。都合よく使われます

・できるなら入社した場合に直接上司になる人や同僚に会わせてもらい、雰囲気をつかむ。部署移動などが望めない分、人間関係のウェイトがどうしても高くなり、ハズレの人に当たると詰んでしまうことがあります

・職業紹介のエージェントを使う場合、かならず複数の人に声をかける。採用情報の絶対数が少ない分、様々なところから情報を集めて選択肢を増やすことが大事です 

・とはいえ全部の条件が完璧にマッチするわけはないので、自分にとって大切な要素と妥協できる要素を整理した上で自分に合った会社選びをしましょう

これくらいの準備は最低限しておくべきです。就職活動をするのであれば当然の心構えという感じもしますが、現地採用の場合はさらに詳細を詰めることを忘れず、慎重になりすぎるくらいでちょうどいいと思います。

さもなければ、現地採用として最初に入社した会社でブラック上司に当たり心身をぶっ壊され、命からがら逃げ出した先でまた別のブラック企業に捕まるなどの苦渋を舐めることになります。経験談なんじゃないかって?さあ、どうなんでしょうね。

語学力「以外」の強みを持つ

「語学力を生かしたいから、海外で働くために現地採用に行きたいんです!」というのは一見もっともらしく、何も間違っていないようにように見えますが、「語学力」の活用の仕方という観点から見ると少しズレていると思わざるを得ません。

残念ながら、語学力はそれ単体ではあまり評価されません。何か他の専門知識やスキルを持っていて仕事上の役割がハッキリあり、それに+αとして専属の通訳がいらない、現地の情報リソースを活用できるなどの補助的な役割として語学力もある、という状態が望ましいです。

語学力だけがなまじ突出している状態で下手に海外で就職してしまうと入社後に明確な役割が与えられず、通訳の真似事のような業務ばかり振られて便利な駒のように扱われてしまい、苦しい思いをするのにスキルも積み上がらない、という状態になりがちです。

逆に通訳や翻訳専門でやっていけるならそれはそれでスキルの積み上げになるかもしれませんが、求められる語学力は相当なものになってしまいますし、そもそも通訳や翻訳でさえ語学力だけで成り立っているものではありません。

後々のキャリアも考慮するなら、スキルを積み上げていけるポジションを確保するために、語学力「以外」のスキルを身に付けることを忘れないでください。

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余談ですが、たまに出羽守界隈から「日本人はlanguage skill を評価してくれないから so bad! わたしの同僚のNancyは「あなたのEnglishってgreater than big moutainね!」って言ってくれるわ!」と、日本では語学力が軽視されがちなことを嘆く声が聞こえてくることがありますが、これはこの人がたまたま同僚のNancyに恵まれただけであって、語学力がいまいち評価されないのは海外でも多分同じだろうと思います。

私は中国しか知らず、周りが中国人の職場をいくつか経験したに過ぎませんが、どこにいっても「中国語上手デスネー」なんて言ってくれるのは最初の3日間くらいのものです。すぐに話せて当たり前という扱いになり、ちょっと言葉が詰まったり聞き返したりすると即座に舌打ちをくらうような環境がほとんどです。

むしろ下手に言葉ができるせいで前述のようなちょっとした通訳みたいに使われ、問題が起こった際に「え?私は事前に言いましたけど?〇〇の翻訳に問題があったんじゃないですか?」と都合よく責任を転嫁させることにためらいがないのは、むしろ中国人の方が多いです。

思い出すとハラワタが煮えくりかえってくるので余談はこの辺にしておきます。

給与・待遇については、ある程度腹をくくる

「現地採用は駐在員と比べて給料が少なくて待遇も違って不公平!駐在員はタワマンみたいな豪華なところに住んで、運転手までついてるのに!」というのも常套句としてよく見られます。これに関しては、前提が間違っていると考えます。

まず、駐在員と現地採用では職責が違います。会社の命令で任期付きでそれなりのポジションを任されて派遣されてくる叩き上げの駐在員と、スターティングメンバーでもない限りはどこまでいっても途中参加の外様でしかない現地採用。業務的にも同じ内容を任されることは少ないでしょう。当然、給料も違ってきます。

もうひとつ、大事な前提があります。企業が現地採用で人材を雇う大きな理由の一つが、「コストダウン」であるという点です。

業務内容的に日本人にしかできないポジションだが、日本から人材をひっぱってくるのにはコストがかかるし、現地生活に慣れさせる時間も必要。だったら現地にいる日本人にやらせて、そのコストを節約してしまおう。現地に生活基盤があるなら、日本の社会保険料も払わなくて済むし。…こうして選ばれるのが現地採用、という現実がどうしてもあります。

つまり現地採用に高待遇を与えることは、現地採用を雇うそもそもの目的に反しているのです。仮にめちゃめちゃ努力して駐在員と同じポジションで同じ程度の活躍ができたとしても、少なくとも日系企業で現地採用である限り待遇面で同じ水準にいくことは難しいでしょう。なんだか書いてて悲しくなってきました。

なので給与や待遇をエリートサラリーマンである駐在員のような水準に持っていくことはいったん諦めて、労働時間や内容などがキツくないような働き方をしたり、現地のリソースを最大限活用して生活費を安く抑えたりする方にエネルギーを割いたほうが賢い選択だと言えます。

もちろん、立場の差を差し引いても仕事内容に対して不当に給料が低かったり搾取されていると感じるのであれば、毅然として給与交渉をするなり、現地企業や外資への転職を検討するなりすればいいと思います。というか、しています。頑張れ、俺。

間に立たされる覚悟を持つ

「現地採用は、駐在員とローカルスタッフの間に立たされて大変」という論もよく見ます。これは前述の語学力などの問題と合わせて考えても、だいたい事実と言っていいでしょう。お互いの言いにくいことを自分を通して言わされそうになったり、両者の言い分を聞かされ調整に奔走したりすることは多く、自分の体験に照らし合わせても「あるある」だと言わざるを得ません。

しかし、たいていの仕事人は何らかの利害関係者の間に立たされているものです。

たとえば製造メーカーで営業をやっている人なら、客先と製造現場の間で、価格や納期の問題に頭を悩ませているでしょう。学校の先生は、学校や保護者・生徒の間に挟まれ辛い思いをしている人が多いと聞きます。人間関係の悩みが少なそうなフリーランスの人だって、自分でいろんな交渉ごとをしなければならないぶん、利害関係の調整とは無縁ではないはずです。

海外で仕事をする場合、挟まれるのが日本人と外国人になり両者の考え方や行動原理が大きく違うので、難しい調整が多くなりストレスも強くなってしまうのだと思います。苦しい役目ですが、他にやる人がいないなら頑張って引き受けていくしかないのかもしれません。

「仕事とは、間に立つことである」くらいの意識を持ち、苦心しながらもなんとかやっていくしかありません。それが嫌ならなんとかスキルを磨いて、そういう仕事を振られない立場に行きましょう。だから頑張れよ。俺。

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これも余談ですが、僕自身は時たま「ローカルスタッフ同士の間に立つ」ことを意識して問題解決に向かうことがあります。

どこの会社でも、部署間のしがらみや業務の押し付けあいをしているうちに膠着化してしまった非効率的な部分が必ずあります。それらを解決するため、利害関係者である中国人スタッフの間に入り、調整を行うのです。

ご想像の通りこの作業は受けるストレスがたいへん強く、勝手なことばかり言う中国人たちの間で振り回されることになります。一時はストレスが頂点に達し、「お前ら同士で勝手にやったらええやんけぇぇぇ!!! 〇ねやボケェェェ!!!」と叫びながら廃工場に落ちていた机を壁にぶん投げるなどの奇行に走ったこともありました。

しかし、めげずにお互いから話を聞き、どういうメリットがあるかを説くことに主眼を置いて根気よくやれば、次第に話を聞いてくれるようになり、協力も得られるようになってきます。

本人同士に任せてもいつまでも解決せず、どちらかがパワーゲームで折れるまで終わらないような問題でも、第三者である日本人が話を聞いてやることで意外なほどすんなり妥協点が見つかり、より良い結果を引き出せることも多いです。

しかしこれには高い語学力とストレスに耐える強い心が必要なので誰にでも出来るものではありません。高い中国語力とメンタルコントロール力を兼ね備えた僕のような高度人材だからこそ出来ることです(今日も椅子を破壊しながら)。

日本側に義理立てしないでいいのは、唯一かもしれない強み

日系企業の場合、駐在員に対して差が付けられるとすれば、「日本側とのしがらみが少ない」点かと思います。

駐在員の人を見ていると、日本の本社側から鶴の一声が飛んできたり、前任者への忖度がやめられなかったりでなかなか自分の意思を出せないで苦しんでいる人をよく見かけます。バカにしているのではありません。会社で末長く生き残っていくために、そういう戦略を取らざるを得ないこともあるでしょう。

その点、現地採用はそのあたりに遠慮する必要はありません。本社などと言われても大半は知らない人なわけです。知らない人が何を言っていようが、聞こえないふりをして自分のやりたいように仕事をすればいいのです。

細く長くやっていきたいのなら話は別ですが、どうせ忖度したところで給料が増えたりはしません。上述したように、現地採用である限り待遇面はどこかで頭打ちになります。求人の時に「駐在員への切り替え登用実績あり!」などと謳っている会社もありますが、「アットホームな職場!」並みに信用できません。

であれば、本当に会社の利益にとって必要なことを見極めて実行したり、スキルや実績の積み上げになる仕事を取るようにしたりと、自由に戦略を立てて働いた方がよっぽど自分のためになります。駐在員にできない仕事を探して、積極的に動きましょう。

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死ぬほどショボい例で恐縮なのですが、駐在員の忖度を乗り越えて業務改善をした体験を紹介させて下さい。

中小製造業の中国工場で働いていた時の話です。その工場には、毎週月曜日には日本本社に週間予定をFAXで送り、月末には財務資料(Excelで200ページ超)を印刷して国際郵便するという悪い冗談のような制度がありました。お読みの皆さんにおかれましてはちょっと何言ってるかわからないと存じますが、2017年頃の話だと言うともっと混乱していただけるでしょうか。

当時の上司である駐在員になんでこんなことをやっているか聞くと、「いやー本部にいる重鎮の財務担当がメールとかに疎くてさ。俺もめんどくさいんだけど、やめるわけにいかないんだよ」という、信じられない返答。

さすがにあまりに馬鹿げていると思ったので、上司の話をいったん聞かなかったことにして、定期巡回で社長が出張してきた際に事情を知らないふりをして改善を訴えると「え、そんなことになってたの?アホちゃうんか」と言いだし、すんなりメールでのやりとりに移行しました。

このように悪しき風習に縛られている部分でも、言ってみれば意外と簡単に変わることもあるんだと言う体験を得た僕は、その後も駐在員の見落としていそうな非効率の改善に精を出すようになり、毎日が充実し、上司と対立するようになり、嫌がらせされてその会社も退職しました(ツッコミ待ち)。

まとめ:戦略がないならやっぱり「やめとけ」だが、なんとか生き抜くことはできる

いろいろ書いてきて、自分で読み返してみて思うのですが、辛いことの方がやっぱり多いですね。なんだか自分への鼓舞のようになっていて、自分で少し笑ってしまいました。

「現地採用=やめとけ」に明確に反論できるほどには、やっぱり積極的に現地採用という雇用形態をおすすめはできません。海外に住みたい!という目的があるのなら、留学や駐在などを目指した方がいいに決まっています。僕自身に現地採用でサクセスしたという意識がないので当然と言えば当然です。

結局この記事の時点では「現地採用=やめとけ」論を強く覆すことはできませんでしたが、なってしまったからにはどうすべきか、という心構えの一端ぐらいは示せたかな、と思います。

これから様々な事情で現地採用を目指す人や、今まさに現地採用で働いている人がサバイブしていくにあたっての戦略を立てる参考になれば幸いです。俺たち、頑張って生き抜こうぜ!

お読みいただきありがとうございました。

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