見出し画像

日本人と中国人、積み重ねることへのインセンティブの違い

日本人はコツコツと地道に物事をこなすことに定評がある分、変化に弱く突発的な事態に対応できないというステレオタイプがあります。一方で中国人は決断が早くどんどん物事を進めていく一方、地道に物事を進めたり、事前に周到な準備をしたりといったことが苦手なイメージがあります。これは多くの人の体感と一致するのではないでしょうか。

では、こういった違いはどこから生まれるのか。それは両者の「積み重ねること」への意識を比較すればわかりやすくなるのではないか、という仮説です。

+++++

日本では真面目にコツコツと同じことを続ける人を評価し、その姿勢を美しいとするコンセンサスが強固で、学校でも社会に出てからもそのような価値観に基づいた教育がなされる傾向が強いように思います。

このコラムによると、日本人のこのような「勤勉さ」ともいえるような気質は、江戸後期〜明治30年ごろにかけて養われたものであるといいます。土地が少ない日本でより多くの生産量を獲得するために、一人当たりの労働投下量を増やす必要があることの裏付けとして、勤勉を是とする価値観が広まったというロジックです。

そして明治以降の日本は、この勤勉さを発展の原動力としてきました。多くの国が製造業が発展していく中で経験する、構造的な長時間労働の問題を勤勉さでもって突破しようとしてきた、ということです。そしてその方法は近代において成功し、日本は世界で有数の経済大国となりました。

つまりコツコツと地道であることは、日本の成長の鍵だったといえます。90年代くらいまではこういった価値観のもとでコツコツやっていればそれなりに成功できた「一億総中流」の歴史があり、それが教育や社会人文化に根強く残っているのが現代のように思います。

こういった背景で、日本人は「積み重ねること」にインセンティブを感じるようになったのではないか、と推測します。

+++++

いっぽう中国人は、「積み重ねること」にあまりインセンティブを感じません。

ごく少数の強者によって回され、ルールが目まぐるしく変わっていく社会では、同じことを続けることは必ずしも有効な戦略とはいえません。むしろルールが変わった時に自分の積み重ねたものが無になるかもしれないと考えれば、一つのことをやり続けることはリスクであるとさえいえます。

また個人的な印象ですが、中国の人は「階層」の存在を強固に内面化しているように思います。その階層による線引きは、地道な努力などではとうてい越えられないということを身に染みて知っている。だからこそ、手間ヒマのかかることをショートカットし、一足飛びに成功を目指す傾向が強いのです。

現代における中国の猛烈な発展は、こういった中国人の傾向が時代と一致したものである、と言えるように思います。特に日本を大きく引き離しているIT分野での成長は、ITがこの「手間ヒマを減らす」という考え方との相性が良く、企業のコストダウン・スピードアップなどにおける戦略や、一般社会での課題解決の手段として広く受け入れられたことが原因ではないかと推測しています。

+++++

日本は経済規模が縮小し、格差も大きくなり、「コツコツやっていればなんとかなる」という中流幻想をいよいよ信じられなくなっています。

他方で中国は、格差は厳然と存在するものの人々はおおむね満足して暮らし、長期安定的な社会に入りました。

お互いの国の事情に裏付けられた気質はすぐに変わることはないでしょうが、いつまでも同じままではないような気もします。僕が死ぬくらいの時にはお互いの国の人々はどう変わっているか、見届けたいと思います。

いただいたサポートは貴重な日本円収入として、日本経済に還元する所存です。