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あの歌

大学の時、大好きになった人がいた。
今でもはっきりと覚えている。恋に落ちた瞬間を。

それはよく晴れた昼下がり。
お昼休憩と、午後一番に始まる授業の間、煙草を吸う彼を見つけたときだった。
「あ、これはやばいかも…」そう思った。

正確に言えば、恋に落ちた瞬間というより、
隠そうとしていた恋心に負けを認めたときであった。
好きになってはいけない、好きになるもんか。
でももう自分には隠せなかった。

そうか。私だけは認めよう。彼には悟られないように。
よし。一番仲のいい人になろう。楽しい時間を共有しよう。それだけで私は充分。
そう、私はいつも言い聞かせていた。

仲良くなった。一緒に笑った。
一緒に自転車に乗った。
一緒に川沿いで煙草を吸った。
一緒に流れる雲を見つめた。
一緒に追いかけた。
一緒に美味しいものも食べた。
一緒に酔っ払った。
一緒に難題に向き合った。
一緒に歌を聴いた。
一緒に歌を…

大好きな人が大好きだった歌。
その歌を、私は隣で聴いて、あなたを想った。
あなたは誰を想っていたのかな。
一緒に隣で聴いたその歌、
私を想って聴いていた時はあったのかな。
私とあなたの想いが重なる時はあったのかな。

この恋は絶対に忘れられない恋になるな、と当時に思った。この恋がどんな色になったって忘れないって。
そう昔に強く思ったからそうなのか、あれほど胸が躍ってしまったから忘れらなくなったのか。
それとも、あの歌に彼への想いを乗せてしまったからなのか。

彼に会いにいく前の眩しい光、彼と別れた帰り道に感じた夜の風。やっぱりあの歌を聞くと忘れられずに蘇る。

私は確信している。これからも忘れられずに切なくて、また懐かしんでしまうのだろうなって。

あの時の私へ。
大丈夫、もう懐かしいなって思えるようになったから。よく頑張ったよね。ありがとう。

懐かしの彼へ。
ありがとう、どうか元気でいますように。
あの歌、あなたの大切な人を想って聴いていますように。


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